「古楽 – バロック以降」カテゴリーアーカイブ

舞台上演版「メサイア」

なんとも大胆な企画だ。ヘンデルのオラトリオ『メサイア』を、オペラ風の舞台上演に仕立ててしまうとは!そのDVDがこちら。ヘンデル/Messiah: Guth Spinosi / Ensemble Matheus Gritton Horak B.mehta Croft Boesch。2009年の案・デア・ウィーン劇場での公演。キリストの生涯をそのまま描くのではなく、ここではその説話に埋め込まれた情感を、一人のサラリーマン風の男性の苦悩と自殺、そしてそれを受け止めなくてはならない親族たちの苦しみとして、いわば「抽出」して描き出している。一種の換骨奪胎なのだけれど、これが結構上手くいっているように感じられる。なかなかに劇的な構成。回り舞台は次々に様々な場面を見せていき、また、主人公の分身のような無言の女性ダンサー(唖という設定?)が、不特定の人々を表すかのような合唱団と相まって全体を見事に引き締める。うーん、見事。演出はクラウス・グート。あー、アーノンクールの指揮だった2006年のザルツブルク音楽祭の『フィガロの結婚』とかの演出を手がけた人ね。なるほど〜。で、音楽自体も全体に抑えの利いたとても美しい演奏で、とても冴えている印象。オラトリオで聴くのとはまた違って、舞台の陰影とともに深みが増すような効果もあるのかしら。指揮はジャン=クリストフ・スピノージ。アンサンブル・マテウスとアーノルド・シェーンベルク合唱団。スピノージ&アンサンブル・マテウスはnaïveのヴィヴァルディ・エディションとかでオペラものを出しているっすね。

W.F.バッハのカンタータ

いわゆる大バッハの長男、ヴィルヘルム・フリーデマン・バッハ。2010年は生誕300年だったのだそうだ(まったくノーマークだった……)。というわけで、DVDで出たそのカンタータ演奏を視聴する。『バッハ、ヴィルヘルム・フリーデマン(1710-1784)/Cantatas: R.otto / L’arpa Festante Mainz Bachchor Etc』という1枚。マインツにあるアウグスティーノ教会での世界初録音とのこと。教会内部の見事な天井画などが映し出される映像も見応えがある。演奏がまた実に素晴らしくてぐいぐい引き込まれる。演奏するのはマインツ・バッハ合唱団とラルパ・フェスタンテ。指揮はラルフ・オットー。どうもバッハの子どもというと、次男のC.P.E.バッハとかが有名な感じがするけれど(石井宏『反音楽史』では末っ子のヨハン・クリスチャン・バッハが高い評価を受けていたとされていたっけ)、この長男だってなかなか素晴らしい曲を手がけているでないの。残念なことに第二次大戦で作品の多くが失われたという話だけれど、チェンバロ協奏曲とかソナタとかは残っているらしい。で、今回はカンタータ4曲とシンフォニア1曲の収録。全体として、晴れやかでのびのびとした曲想が妙に映える感じで、個人的にはとても気に入った(笑)。

年末はザ・シックスティーン

クリスマスから新年のこの時期は、やはり宗教曲がよく合う。というわけで今年の一枚は、ザ・シクスティーンによる『ヘンデル:ディクシット・ドミヌス、ステファーニ:スターバト・マーテル』(Handel : Dixit Dominus: Christophers / The Sixteen steffani: Stabat Mater)。実はこれ、去年の暮れくらいにゲットしてずっと積ん聴(というか埋まっていた……)だったりしたもの。一年後に聴けて、しかも聴いていて幸せな気分に浸れるという個人的にはまさに感動もの(笑)の一枚となった。演奏するのはハリー・クリストファー率いるザ・シックスティーンも久々だけれど、当然ながらそのクオリティの高さは言うことなし。収録曲はアゴスティーノ・ステファーニ(1654 – 1728)の「スターバト・マーテル」と、ヘンデルの最初期のころの「ディクシット・ドミヌス」。ステファーニってよく知らなかったのだけれど、ヘンデルより多少歳の行った、ほぼ同年代の作曲家。6声による華麗な教会音楽なのだけれど、どこか「音のある静謐」という矛盾形容を想わせる(?)素晴らしい作品だ。ヘンデルのほうも、これは後年のものよりずいぶんと若々しい、どこか複雑で挑戦的な曲想。こちらは5声。

聴き比べ:マンドリン、リュートのための協奏曲集

期せずして聴き比べ状態になってしまったヴィヴァルディ『マンドリンとリュートのための協奏曲集』2枚(笑)。ご多分に漏れず、超有名曲のRV93とかRV425はどうしてもついつい食いついてしまう(笑)。で、まず1つはこちら、ラルテ・デラルコの廉価版CD(Vivaldi /Concertos For Mandolin and Lute: Guglielmo / L’arte Dell’arco)。おお、なにやらとても自然体で入っていける一枚(笑)。なにかこう、衒いのようなものもなく、落ち着いた感じの音作りという印象。2009年の録音ということで、まさに「今風」の古楽演奏で、その華やかさも含めてお手本的な感じ。個人的には結構気に入っている。とりあえずの「スタンダード」ということで良いかも(?)。

もう1つは、ポール・オデットとパーリー・オブ・インストルメンツによる1984年録音(Vivaldi: Lute & Mandolin Concertos)。ハイペリオンの30周年記念盤ということで復刻されているうちの一枚(でもこれ、このリンクのようにiTunesとかでも扱われているのよねえ)。こちらも颯爽たる演奏が心地いい。けれど今聞くとどこか節々に、なにか引っかかりというか、ところどころごっつい感じがあるような……。特に上との対比ということでは、全体が妙に引き締まった印象。そう思って耳を傾けるせいかもしれないけれど、これってある種の時代的なテイストかもしれないなあ、と。いやいや別に古いくさいというわけではなく、むしろ好印象なのだけれど。オデットはやはり名手というか、ここぞというところで華麗な演奏を聴かせてくれる。

ロベルタ・インヴェルニッツィのリサイタル

王子の北とぴあで行われた、ロベルタ・インヴェルニッツィのソプラノ・リサイタルに行く。お目当てはむしろ伴奏のテオルボだったりするのだけれど……(笑)。そちらはクレイグ・マルキテッリという奏者。プログラムはイタリアの初期バロックということで、歌&伴奏はカッチーニ、カリッシミ、ロッシ、ディンディア、モンテヴェルディ。で、その間に挟むようにしてテオルボ独奏。カプスベルガー3曲にピッチーニ2曲。個人的には、歌もさることながら、この独奏が実に良かった(笑)。ソロCDとかはまだ出していないみたいだけれど、ソロ録音も絶対行けそう!あ、デュオではジョバンニ・アントニオ・テルツィを演奏したCDが出ているのか。YouTubeに1曲載っていますね(→http://www.youtube.com/watch?v=yXDFKdfcwD4)。ラストのモンテヴェルディ「苦しみが甘美なものならば」に続き、アンコールはカッチーニの「アマリリ麗し」ときて、まさに最強路線(笑)。アンコールのもう一曲はちょっと知らなかったのだけれど、バルバラ・ストロッツィの曲で「mi fa ridere la speranza(「期待とは笑わせてくれる」)」。