ケアする側の創発的対応

仙人と妄想デートする: 看護の現象学と自由の哲学こちらはケアする側の対応へ現象学的にアプローチする一冊。ある意味、先のマラブー本と合わせて読むのは興味深いかもしれない。村上靖彦『仙人と妄想デートする: 看護の現象学と自由の哲学』(人文書院、2016)。現象学的な見地から看護の現場でのフィールドワークを続いている同著者の何冊目かの著書だが、この一見不可思議な印象を与えるタイトルが何よりも利いている。看護の仕事に取り組む人々が、ケア対象者の千差万別の状況に対応するには、マニュアルに書かれていることなどに頼るわけにはいかない。そこでは、著者が「実践のプラットフォーム」と呼ぶ動的な、それ自体変化していくしかない創造的な規範・ルールの束を、それぞれの対応者が作っていくしかない。それがいかに創り上げられていくのか、それが動的にいかに変化するのか、そういう領域にここでは現象学が切り込んでいく。そこから浮かび上がるのは、なんとも奥深い、それでいてどこか身近な、意思伝達の下部に横たわるリアルな層にほかならない!