古来の古典語学習

Learning Latin the Ancient Way: Latin Textbooks from the Ancient World明けて2017年なり。賀正。というわけで、今年の一本目は例によって古典語についての話。エレナー・ディケイ『古代の仕方でラテン語を学ぶ』(Eleanor Dickey, Learning Latin the Ancient Way: Latin Textbooks from the Ancient World
, Cambridge University Press, 2016
)という一冊を年末に眺めてみた。ローマ時代のギリシア語圏の人々は、必要に迫られてラテン語を外国語として学んでいたといい、それらの人々がどのような教材を用いていたのかを実例(の英訳)を交えながらまとめた一冊。この、「古代の人々がどのようにラテン語を学んでいたか」という着眼点がまずもって素晴らしい。そこから具体的な教材(とくに残っているのが3、4世紀のもの)の検証に入っていくのだけれど、大きな特徴として、当時は逐語的な対訳本が使われていたことが示されている。対訳本のカバーする範囲は多岐にわたり、日常生活的な会話本から、トロイア戦争についての各種物語、イソップの寓話、より専門的なところでは、ハドリアヌスの判決や奴隷解放についての論文など、実に多岐にわたっている。テキストブックはそんな感じだが、興味深いのは文法書。当時は学習対象の言語で書かれた文法書(つまりラテン語で書かれたラテン語文法書)を、習い始めのころから用いていたのだという。もちろん教師がいて、それを解説するというやり方だったのだろうと推測されるけれど、なかなか初学者にはハードだったのではないかなと思われるところだ。また、すべての学習者がラテン・アルファベットを修得していたわけではないといい、ギリシア語のアルファベットで転記された教材もあったという話も面白い。巻末にはラテン語・ギリシア語の対訳教材の実例(英訳なし)や、語が分割されていないテキストの例、さらには文献情報も付されていて、とても参考になる。


このブログではさほど取り上げていないけれど、昨年2016年は古典語学習者としては、教材の刊行において充実していた1年だったような気がする。あまり聴けなかったけれど、放送大学でのラテン語講座も始まったし(教材はヘルマン・ゴチェフスキ『ラテン語の世界 (放送大学教材)』(放送大学教育振興会)、7月にはマルティン・チエシュコ『古典ギリシア語文典』(平山晃司訳、白水社)も出た。これも時間があるときに眺めたりすると、結構発見があったりして興味深い。語学はどの言葉でも奥が深いことを改めて感じさせてくれる。また、これは古典語というと語弊があるが、井筒俊彦全集の一つとして、3月にはアラビア語入門 (井筒俊彦全集 第十二巻)』(慶應義塾大学出版会)が再刊となった。アラビア語は個人的に、イブン・シーナの『治癒の書』から自然学をアラビア語・英語の対訳本で読み進める作業を、時間があるときに少しずつ行っているだけなので、一般的な基本語彙などを結構忘れてしまっている。そんなわけで、この井筒版の教科書で復習しようと思いつつ年を越してしまった。今年はぜひそちらにも取りかかりたい。

ラテン語の世界 (放送大学教材) 古典ギリシア語文典 アラビア語入門 (井筒俊彦全集 第十二巻)