ロザンヴァロンを推す

カウンター・デモクラシー――不信の時代の政治ちょっと宣伝(笑)。拙訳でピエール・ロザンヴァロン『カウンター・デモクラシー――不信の時代の政治』(岩波書店、2017)が刊行された。民主主義というと、どうしても選挙制、代議制が念頭に浮かび、そうした制度のことを指すのだと思われがちだけれど、実は古代ギリシアの昔から、それに並立するかたちでもう一つの民主主義の動きがあった。すなわち、おもに行政権を監視し、それを批判し、ノーを突きつけるという側面だ。歴史的に、それはときおり制度化されたりもしたが(古代ギリシアがそう。ある意味、西欧中世にもそうした事例は見られるというし、アメリカの初期の憲法草案にもそうした考え方が盛り込まれていたという)、制度化されないまま社会運動として継承されてきもした(フランス革命後や英国で、なぜ結局それが制度化されえなかったのか、という点についても、同書は問題として取り上げている)。そして現在の政治において再度見いだされるべきは、まさにそうした監視・阻止・審判の機能ではないか、そうした機能を復権させることが喫緊の課題ではないか、と説くのがロザンヴァロンの同書だ。カウンター・デモクラシー(対抗民主主義)とは、そういう意味でのもう一つの民主主義の流れのことを言う。

ロザンヴァロンはすでに邦訳がいくつかあり、その名前は政治学・社会学・歴史学の研究者には知られているところだというが、より一般的にももう少し知られてもよいのでは、とも思う。ロザンヴァロンは1948年生まれ(ロワール・エ・シェール県ブロワ)。高等商業学校(HEC)の出で、フランス民主主義労働同盟(CFDT:つい先日、民間部門の加入者数で初めて労働総同盟CGTを抜いたと報じられた労働組合)で政治活動に精力的に関わった後、ふたたび研究活動に入り、歴史学・政治学の分野で様々な著作を発表してきた。一方で82年にサン=シモン財団(シンクタンク)を作ったり、2002年には「思想共和国」という知的グループを立ち上げたりと、中道左派系を中心とする人的交流の結節点にもなっている「大物」でもある。今回の『カウンター・デモクラシー』は、上のようにきわめて重要な問題を扱っているのだけれど、本としてはいわゆる学術的エッセイで、どこか衒学的な書きっぷり(フランスでは、学術系の著者は出版社側からそういう姿勢を要求されるらしいのだが)なので、一見あまり一般向けではない印象を持たれるかもしれない。けれども、内容がきわめてアクチャルでもあることだし、できれば一般の読者の方々にも、そういう堅苦しい部分をなるべく差し引いて読んでいただけたら、と切に願う次第である。