制御(調節)という謎

セレンゲティ・ルール――生命はいかに調節されるか今年も年越し本がいくつか。例年、年越し本は少し毛色の違ったものを含めることが多い。今年もまたそんな感じ。というわけで、今年の一発目はショーン・B・キャロル『セレンゲティ・ルール――生命はいかに調節されるか』(高橋洋訳、紀伊國屋書店、2017)。タンザニアのセレンゲティ国立公園を舞台に、生物圏に恒常的なバランスをもたらしている「ルール」とは何かを、進化発生生物学の権威が、一般向けに平易な文体で説いた一種の啓蒙書。けれどその核心的な主題に至るのは全体の広範からで、その前奏となる生物学の諸分野での「調節機能」発見の科学史がとても興味深い。ウォルター・キャノンによるホメオスタシス概念の確立、チャールズ・エルトンの食物連鎖概念、ジャック・モノーによる制御タンパク質(リプレッサ)および二重否定論理の発見、ゴールドスタイン&ブラウンによるコレステロールの調整機能の検証、ジャネット・デイヴィソン・ラウリーによる調整失敗としてのガン細胞発生研究などを経て、ロバート・ペインによる海洋生物の生態環境変化の研究と、そこから導かれたキーストーン種(生物多様性に広く影響を及ぼす種)の発見へとたどり着く。これらはどれも、実験的にルールを破れる状況を探し出して、何が起こるかを探る、あるいは既存のシステムが崩壊している状況を見つけて、理由の解明を試みるという点で、手法が似通っている。アナロジカルだと言ってもよさそうだ。そのようなアナロジカルな手法が、最後にはセレンゲティの生物環境にも適用されていく……。

このようなまとめからもある程度推測できるように、同書はある種の思想的「起点」になりうる奥深さをもっているように思われる。まずは制御一般なるものを考える上でのヒントになりうる。また昨今かまびすしい「動物の哲学」にも接合させられうるだろう。さらにはこうしたアナロジカルな研究メソッドの、学際的な応用可能性なども興味深い論点かもしれない。とくに制御タンパク質の話以降、たびたび取り上げられている二重否定パターン(直接的に働きかけるのではなく、別個に存在する抑制因子に働きかけるというパターン)が、他の研究領域でもしばしば見られるというあたりは、思わず唸らせられる。