テオフラストス:匂いの分類の試み

De Causis Plantarum, Volume III: Books 5-6 (Loeb Classical Library)再びテオフラストス。今度は『植物原因論』から第4章と第5章をすっ飛ばして、いきなり第6章を読み始める(Loeb版:De Causis Plantarum, Volume III: Books 5-6 (Loeb Classical Library), tr. B. Einarson & G. K. K. Link, Harvard University Press, 1990)。これは「匂いについて」というタイトルで別文書として切り出されたりしているものなのだとか。実際、ここでは最初に香り・匂いについての一般論(分類や原因についての考察)が展開し、その後植物との関連が云々されていく。まずは分類なのだけれど、これが7種類もしくは8種類あるとされる。列挙しておくと、1. 甘い香り(γλκὺς)、2. 油っぽい香り(λιπαρὸς)、3. 刺激性のある香り(πικρὸς)、4. 苦みのある香り(αὐστηρὸς)、5. つんとくる匂い(δριμὺς)、6. 酸性の匂い(ὀξὺς)、7. 痛烈な匂い(στρυφνὸς)、そして8つめは塩気のある匂い(ἁλμυρὸς)、ということになるらしい。訳語が合っているかどうか疑わしいし、テオフラストス曰く、ほかにワインに似た匂いを加える論者もいるとされ、区分はそれ自体どこか曖昧で未確定なものを感じさせる。

テオフラストスのこの分類はどのように成立したのだろうか? この点が気になるところだが、明確には述べられていない。いくつかの香りを原理(本性)とし、残りをその原理の欠如と見なすべきか、という問いをテオフラストスは立てているが、すぐに様々な疑問が提出され、結果的にそうした本性と欠如とへの単純なカテゴリー分類はありえないことが論じられる。甘さや油っぽさは栄養分を意味するので、一見本性的に括られそうに見えるのだけれど、かならずしも食に適さない甘い匂いというものもありうるし、動物の種が違えば栄養分にするかしないかも異なり、まったくもって一概には言えない、ということになる。結果的にテオフラストスは、ここでもまた確定的なことは言えず、甘い香りひとつとってみても、そこには緩い、漸進的な変化の広がりがあるだけだということを認めるしかない。安易な分類への拒否、一定の広がりの中での認識は、テオフラストスの真摯で繊細な目配せを感じさせる。一方で、問いはやはり宙づりのままになり、微妙な緊張感をはらみつつ議論は先へと進んでいく……。