分解概念の先鋭化へ

分解の哲学 ―腐敗と発酵をめぐる思考―夏読書の季節。というわけでとりあえず眺めていたのが、最近刊行されたばかりの藤原辰史『分解の哲学 ―腐敗と発酵をめぐる思考―』(青土社、2019)。予備知識なしにタイトルに惹かれてゲットした一冊だが、『現代思想』誌の連載を中心にまとめた論集ということらしい。良い意味で、タイトルから個人的に予想した内容とは異なっていたが、刺激的な論考が並ぶ。同書での分解は、単に生化学的な分解や再生、さらには循環のプロセスだけでなく、人工物を解体する場合(あるいは壊れた機械の修理など)なども含む包括的な概念として示されている。しかもそれは、ネグリ&ハートが提唱した<帝国>概念を掘り崩すための操作概念として、さらに鍛え上げようとするものでもあるようだ。腐敗力・分解力を高めることこそ、<帝国>を瓦解させる糸口なのだ、と。<帝国>が抽象概念であるのと同様に、腐敗・分解も抽象的な概念を出発点として、豊かな肉付けを施さなくてはならない。なによりも、それは<帝国>側の衛生概念として安易に取り込まれてしまうものでもあるからだ。そうした事態に抗するには、概念の徹底化・先鋭化を求めていくしかない、と同書は説く。