写経は難しい

Generative Design with p5.js - [p5.js版ジェネラティブデザイン] ―ウェブでのクリエイティブ・コーディングProcessingの姉妹編というか、派生形のp5.jsでもスクリプトを書いてみたりしているが、練習のためのコードの書き写し(俗にプログラミング界隈で「写経」と称される)で、こんなに書き間違うものかと思うくらいミスが出る(苦笑)。参考書としては、邦語のp5.js本としては現在事実上一択のGenerative Design with p5.js – [p5.js版ジェネラティブデザイン] ―ウェブでのクリエイティブ・コーディング』(ベネディクト・グロスほか著、深津貴之訳、ビー・エヌ・エヌ新社、2018)を使っているのだけれど、これはプログラムで描かれる図柄がなかなかに美しい秀逸な本。とはいえダウンロードできるソースコードを見ると、章を追うごとに複雑になるのは当然として、徐々にどこか力業っぽくコードをぶん回す感じになってくる。そのため写経するのは苦行をともなうようになる。単なるスペルミスのほか、細かいところの理解不足によるミスなども頻発するが、ミスを誘発しやすい要因の一つに、長すぎる変数名その他が反復されるという点もありそうだ。そりゃコードを読むだけならそれほど問題にならないだろうし、日常語的な長い変数名は可読性という点でわかりやすくなるのだろうけれど、打ち込むとなると途端に苦行と化す(笑)。分野は違うとはいえ、写字生の苦労が偲ばれるのは確かだ。一方で、文字や画像を基本単位(ピクセルとか)にまで分割して再構成するという基本的な発想(アリストテレス的だ)は大いに参考になるところではある。

書き換えられた聖書 (ちくま学芸文庫)そうした書き写しのミスの話にも関連するが、このところ見ていたのがバート・D・アーマン『書き換えられた聖書 (ちくま学芸文庫)』(松田和也訳、筑摩書房、2019)。これ、文庫化の元となった単行本『捏造された聖書』も購入したように思われるのだが、どこかに積まれて発見されず、文庫も改めて買いなおしたもの。個人的にはルネサンス以降の新約聖書を扱った3章以降が参考になる。聖書の「改ざん」の具体的な事例を挙げているあたりも、身につまされる話だったりもする。

紹介されている各種の逸話も興味深い。個人的にとりわけ印象に残ったのがエラスムス。西欧初の印刷版のギリシア語聖書は、スペインの枢機卿ヒメネスが発案した『コンプルトゥム版多国語対照聖書』になるはずだったが、その刊行の計画を知っていたエラスムスが、それに先んじて、ちゃっかり初の印刷版ギリシア語新約聖書を刊行してしまうというのだ。かなり急いだ雑な仕事だったようで、わずか一冊の写本に依拠していただけだというから驚く。そうまでして初の印刷本という誉れをかっさらってしまうあたり、エラスムスの人間臭さというか俗なところがかなり前面に出ているかのようで、そういう面からのエラスムス像というのは新鮮な気がする。