エメラルド碑文

魔術関連シリーズというわけでもないのだけれど(笑)、ヘルメスの伝承のうちで名の知れたエメラルド碑文(エメラルド・タブレット)の様々な版を集めて仏訳した本が出ているのを最近知った(“La Table d’Émeraude”, préf. Didier Kahn, Les Belles Lettres, 2008)。エメラルド碑文というのは、1世紀の新ピュタゴラス派の哲学者・魔術師、テュアナのアポロニオス(アラブ世界ではバリヌス)に帰されるという『創造の秘密の書』の巻末に収められた短いテキスト。そのアポロニオスがヘルメス・トリスメギストスの墓で見つけた碑文とされる。ディディエ・カーンの序文によれば、『創造の秘密の書』は6世紀ごろのアラビア語訳という形で伝わっていて、ギリシア語の原典は失われているという。また、別のバージョンのエメラルド碑文が、偽アリストテレスの『秘中の秘』(8世紀)にも収録されているという。で、この両方の碑文がアラビア語ともども上の仏訳書に収められている。

『創造の秘密の書』は12世紀前半のラテン語訳(サンタラのフーゴ)のほか、別のラテン語訳もあり、この後者は西欧で最も普及したホルトゥラヌスの注釈つきのラテン語版(14世紀)に近いものなのだとか。『秘中の秘』は13世紀中頃の訳があり、ロジャー・ベーコンが注釈を付けている。上の仏訳本は残念ながら、それらは仏訳のみを収録している。さらに15世紀、16世紀の韻文での仏訳版、『ヘルメスの七章(黄金の章)』(16世紀の編纂)、『クラテスの書』(9から10世紀)が収録されている。うーむ、やはりラテン語版テキストがあるものはそれも合わせて収録してほしかったなあ。

「エメラルド碑文」への2件のフィードバック

  1. カルデア教義の概要やっぱりたいへんやっかいですね。

    拙ヘルモゲネスの旅はエメラルド板からはじまったようなもので、開始から二ヶ月くらいのところご笑覧ください。
    まだ、意味も分からずに書いていたきらいがありますけど。

    貴兄の興味の対象がMagiaに近づいてきたのがなんとも心強い限りです。

  2. それはぜひ参考にさせていただきます。
    それにしてもこの異教的世界、なかなか奥深そうですねえ。

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