九鬼哲学入門文選

ちょっと思うところあって、九鬼周造の偶然についての論考を読もうと思い、代表作『偶然性の問題』とかの前にとりあえず小論を、と考えて手にしたのが『偶然と驚きの哲学 – 九鬼哲学入門文選』(書肆心水、2007)。これはなかなか手頃で良質な文選(こういうものはもっといろいろ出してほしいところ)。『偶然性の問題』の要旨をまとめたような小論(「偶然の諸相」)が収録されていたのは予想通りだったけれど、まさかその序文と目次、結論まで入っているとは意外だった(笑)。偶然を必然すなわち同一性の否定ととらえ、必然の三つの相の裏返しとして、定言的偶然、仮説的偶然、離接的偶然を分けるという、九鬼偶然論の基本がよくわかる。さらに「驚きの情と偶然性」では、現実世界そのものに原始偶然を見るという境地になっている。これなどは、偶有(個体)をこそモノの存在様式の基本アスペクトと見るドゥンス・スコトゥスあたりとも共鳴させることができそうな感じで、個人的には興味深い。いずれにしても、こうして短い文選でもって読むと、やはりちょっと物足りない、読み足りないという気もしてくる。ちょっと全集版を図書館で見てくることにしようかと。