「西洋挿絵見聞録」

昨年秋に出ていた気谷誠『西洋挿絵見聞録』(アーツアンドクラフト、2009)を最近ゲット。早速ルネサンス編とロココ編をざっと読む。著者は洋古書蒐集家として知られる人物(2008年に急逝されたそうだ)。ルネサンス編では、とりわけ小型本の嚆矢となったという出版人アルドゥス・マヌティウスが話題の中心。イタリック体の考案者でもあるのだという。書物を一気に大衆化・脱聖化したというその功績・重要性が繰り返し強調されている。うーん、活版印刷そのものもさることながら、この小型化というのはとても重要なモーメントだったのだなあ、と改めて思う。マキアヴェッリなども、そういう小型本をもって散策していた(中世には見られなかった習慣)という。もう一人の話題の主が、愛書家ジャン・グロリエ。当時は最終的な製本は読者がするものだったわけだけれど、グロリエが用いた(というか注文を出した)装丁をグロリエ様式というのだという。革装と金箔捺しがイスラム圏から伝播したものだったというのも興味深い。ロココ編になると、挿絵の変遷などが中心テーマになってきて、こちらもまた面白い。全編、愛書家ならではのまなざしが感じられて、とても充実した一冊という手触り。この後、ロマン編、擬古典派編、ベルエポック編と続いていくけれど、こんな感じで一気に読めそうな感じだ。アルドゥスに敬意を表して、Festina Lente(ゆっくり急げ:アルドゥスの印刷所のモットーとされた格言)で行こう(笑)。