サンデル本

先にNHKで放映された『白熱教室』の人気もあってか、マイケル・サンデル『これからの「正義」の話をしよう』(鬼澤忍訳、早川書房)が人文書としては異例なほど売れているそうで、近所の小さい書店でも平棚に積まれていた。というわけで、せっかくなので購入し読んでみる。なるほど、これは『白熱教室』の基本ラインをよりわかりやすくまとめたもの、という感じ。個人の自由をベースに、正義を善や目的などから捨象して考えるカント=ロールズの路線に対して、サンデルはアリストテレスをいわば「復権させる」ことで、善や目的論の再定義を考えようとしている、というのがそれ。このアリストテレス=サンデルの対抗路線は、主意主義的なものの見方の限界を示し、一方でマッキンタイアのナラティブ論とかをも入れて、個人主義の立場からは出てこない、コミュニティに帰属する個人の責務をも規定しようという、なかなかに興味深い立場。なるほど、こういう形でのアリストテレスの復権というのはとても面白い着想ではある。テレビ版では、合間に入る解説が、「これがサンデル自身の立場なんですねえ」みたいに言っていただけで、サンデル自身の立場はあまり明確に示されなかった気がするけれど、書籍の方はとくに後半によりはっきりしてくる印象。あくまで個人の側からのコミュニティへの関わりが問われるわけだけれど、一方で、たとえば逆に国家の側は国民にどう関わりうるのかとった問題はオープンになったままで、今週末は選挙だし(笑)、アリストテレスとかを俎上にのせてそんなことを考えるのも面白いかもしれないなあ、と思ってみたりもする(笑)。