「権威の概念」

これまた夏読書ということで、実に久々のコジェーヴ本。アレクサンドル・コジェーヴ『権威の概念』(今村真介訳、法政大学出版局)。権威というある意味不思議な現象を、現象学的、形而上学的に分析していくというなかなか興味の尽きない一冊。前半が分析、後半はその演繹となっている。コジェーヴによる権威の定義は、要するに物理的強制力を伴わず、かつ対抗行為が断念されるような強制的関係ということ。まずこの否定神学的な規定が印象的。ひさびさに大陸的な定義様式を見たなあ、という感じ。で、その権威だけれど、それは四つの純粋タイプに分かれるという。父の権威、主人の権威、指導者の権威、裁判官の権威がそれで、それぞれ、スコラ学、ヘーゲル、アリストテレス、プラトンが対応する理論を提示しているのだという(この純粋タイプが組み合わさることで六四ものヴァリアントが出来上がるのだそうだ)。個人的にはやはりとくにこの父の権威(原因論的)という部分が興味深く、スコラが絡むことからもわかるように、そこには神の権威という主題がつきまとう。で、そこには権威の伝達の問題、記憶の問題、永遠という時間の様態の問題などなどが絡んでいて、コジェーヴはそれらを実に見事に切り分けて提示してくる。うーむ、なんともいえない鮮やかさ(?)。