古代・中世の「意志」問題

これも「意志」がらみの研究書。マイケル・フランプトン『意志の具現化』(Michael Frampton, “Embodiment of will”, VDM, 2008をちらちらと眺め始める。これ、副題が「古代からラテン中世までの動物の自発的運動に関する解剖学的・生理学的諸理論」となっていて、つまりは動物が意志的に行う運動についての理論の変遷を前400年から1300年までのスコープで扱うという、とても野心的な本。600ページを越える本だけれど、文献表や索引が200ページ以上を占めていて、なにやら圧倒的。学術論文の形式を取っているので、本文よりも注がページを占拠している感じ。でもこの学術論文形式のよいところは、目次の小見出しを追うだけでも全体的な流れがわかることっすね。大筋でいえば、最初の二章では、魂が座する器官を心臓とするアリストテレスと、それを脳や神経に認めるガレノスが対比されていく。後者は中世にまでいたり、次いで中世盛期にはアヴィセンナ経由などでアリストテレスの考え方が入ってきて、両者の折衷案のようなものができる、というのが大きな見取り図。けれど、やはり個別の議論は結構細かい目配せがなされているようで、たとえばアリストテレスを扱う第一章でも、その医学的議論の前史などもまとめられていて興味深い。中世盛期でいえば、たとえばアリストテレスの本格流入前について、サレルノで活躍したらしい数人の医者の著作なども取り上げられている。そのあたりが個人的には面白そう。ちょっと腰を据えて読んでいきたいところ。目次からすると、ちょっと中世初期と盛期との間が抜けているような印象だけれど、まあこれは仕方がないところなのかな。ちなみに著者は独立系の研究者(機関に所属していないということでしょうね)。