ユダヤ教から見たイエス像

これまた年越し本。ペーター・シェーファー『タルムードの中のイエス』(上村静ほか訳、岩波書店)。序章と1章の後にいきなり9章に飛び、そこから残りに戻るという、少し乱雑な読みをあえてしているのだけれど(苦笑)、全体としては結構興味深い。タルムードの中にイエスがどのように描かれているかを掘り起こすことで、ユダヤ教側がその新種の「セクト」にどう対応しようとしていたのか、実像を示そうという野心的な試み。もちろん、すぐに予想されるのは、キリスト教を貶めるような描かれ方をしているだろうということ。著者はそれを「対抗物語」として詳しく追っていくのだけれど、そこから、実はユダヤ社会側の反応も一枚岩ではなく、多様な社会情勢を反映していたことが読み取れると主張している。特にバビロニア・タルムードとパレスチナ系の資料の間には、主題の扱い方などの傾向に大きな違いがあるという。前者がイエス個人を大きく取り上げ、その奇跡譚を魔術として批判するのに対し、パレスチナ資料はイエスの弟子たちとそのセクトの異端的な性格を描こうとするのだという。で、その差は(当然というべきか)両資料の作成された時期・場所に密接に関係しているらしい……と。ユダヤ教のラビたちが何を恐れ、何から身を守ろうとしていたのかが、そういう些細な資料から浮かび上がるかもしれない、というところが、本書のとてもスリリングな面。