シャルトル大聖堂の聖母扉

去りゆく夏に思いを馳せつつ文献読み(笑)。ごく短いペーパーだし、ちょっと古いのだけれど、とりあえず面白かったので挙げておこう。ティトゥス・ブルクハルト「自由七科とシャルトル大聖堂の西正面扉」というもの(Titus Burckhardt, “The Seven Liberal Arts and the West Door of Chartres Cathedral”, Studies in Comparative Religion, Vol. 3, No. 3 (1969))。「Chartres and die Geburt der Kathedrale」という著書からの抜粋らしいのだけれど、わずか4ページ(正味3ページ)で、シャルトル大聖堂の西正面扉口にある、聖母マリアを囲む自由七科の擬人化とそれらに対応する学知の要人たちについてきっちりとまとめられていて勉強になった(笑)。なぜ自由七科がマリアと関連づけられているかというと、自由七科は学知と同時に魂の才をも表しているのだそうで、マリアは魂にあらゆる才を併せ持つとされていたからとか。で、シャルトルのティエリーは三学科(文法、論理学、修辞学)を表現の学とし、ほかの四学科を知性の学と分類したというが、いずれにしてもそのティンパヌムでは、学そのものを表す女性像と、その学の偉人が配列されていて、文法はドナトゥスとプリスキアヌス、論理学はアリストテレス、修辞学はキケロ、算術はボエティウス、音楽はピュタゴラス、幾何学はエウクレイデス、天文学はプトレマイオスとなっている。ふむふむ、以前、フレスコ画「アクィナスの勝利」での学科と偉人の対応を取り上げたことがあったけれど、やはりそちらとは少し違うようで。個人的には、ダンテが古来からの伝承にもとづき『饗宴』で自由七科を七惑星に対応させた(文法→月、論理学→水星、修辞学→金星、算術→太陽、音楽→火星、幾何学→木星、天文学→土星)のを、3つある扉のうちの左側がなぞっていて、ティンパヌムが蒼天を表しているという話のほうがいっそうの興味をそそるのだけどね(笑)。著者のティトゥス・ブルクハルトは、伝統的な形而上学・コスモロジー研究の著名な大家(詳細がこちらに)。

↓Wikipedia(en)より、シャルトル大聖堂の西正面扉口。この右手の扉が聖母(聖処女)の扉。