中世の目録作成

これまた短い論文ながら興味深いのが、ベス・M・ラッセル「秘められた知恵と未見の宝物:中世図書館の目録作成を再訪する」という論考(Beth M. Russell, Hidden Wisdom and Unseen Treasure: Revisiting Cataloging in Medieval Libraries, Cataloging and Classification Quarterly, Vol 26, no.3, 1998)。図書館の目録作成が時代を下るほど発展してきたという線的な歴史観を批判して、中世の図書館にはそれなりの工夫と知恵が見られたことを改めて紹介している。紹介されている事例は、書物の物理的な形状で分類するとか、必要に応じて配置場所を変えておくといった工夫、書物にアルファベット記号を割り振った例、本棚の具体的場所を示した例、最初の単語を記録しておくといった例(これは結構頻度が高そうな印象だ)、自由七科の順番やその他一般的な知識の分類スキームに則った順番に並べる方法、近代を思わせるようなアルファベット順の配置、さらにはテーマ別の配置などなど……。複数の作品を一つに綴じてあるような書物の場合の分類方法は、とりわけ問題になったという。こうして見ると、はるか後代の分類で問題になっていたことは、なるほど中世においては体系的アプローチではないにせよ、やはり同じように問題になっていたらしいことが窺える。中世の人々はそこに個別・特殊なやり方で対応していた。で、そうした個別の対応は、現代においても面倒な目録作成の、もしかしたら新たな着想源となりうるかもしれない……これが著者の結論なのだけれど、これって、中世を探求するモチベーションとしてなかなか説得力があるなあ、と(笑)。

↓wikipedia(en)より、ボエティウス『哲学の慰め』仏訳版第一巻の挿絵に描かれた図書館の内部。