錬金術と植物テーマ

相変わらず『植物の世界』(Le monde végétal)から。今度はミケラ・ペレイラ「植物的生と錬金術的変成」(Michela Pereira, Vita vegetale e trasformazione alchemica, pp.207-229)をざっと見。アラブから西欧に錬金術が入ってきた当初は、各種の金属や鉱物の実体を実験に用いるという手法が主だったというが、14世紀初頭以降は水銀を中心とする蒸留ドクトリン(パラケルススにも通じるもの)が確立される。そのテーマを扱う嚆矢となった錬金術書に、偽ルルスの『自然の秘密または第五元素の書』(Liber de secretis naturae seu de quinta essentia)なるものがあったという。第五元素(quinta essentia)は14世紀には第一質料と同義とされ、「水銀」とも同一視されるらしいのだけれど、そこではさらにワインほか有機物から蒸留により抽出されるエッセンスとして言及されていたりするという。同時代のロクタイヤドのジャン(Giovanni da Rupescissa, Jean de Roquetaillade)の著書などにも言及があり、こうして錬金術に自然学的なテーマ(生命の力学)が介入してくるというわけだ。それは物質と生命とを重ね合わせ、錬金術の変成過程と生命の生殖・誕生の過程とを重ね合わせることにもなる、と。論考はさらに、植物的テーマ自体がギリシア語圏の錬金術の伝統(ゾシモスほか)に見られることや、ルルス的な哲学の木が同偽書の中で錬金術的に再解釈されていること(実際のところ、ルルスの真正著書には錬金術書はないのだそうだが)、錬金術と人間の創造との接合というテーマへの接合などを取り上げてみせる。うーむ、錬金術関連の歴史は個人的にまだあまり整理ができていないので、なにやらこういうのはとても参考になる。まあ、時に多少面食らう感じもあるけれど……(笑)。

↓ wikipedia(de)から、ルルスの『アルス・ブレヴィス』(1308年ごろ)より「フィグラA」