「トビアの帰還」

ハイドンのオラトリオ『トビアの帰還』を、naxosミュージック・ライブラリの盤(http://ml.naxos.jp/album/8.570300-02)で聴く。指揮はアンドレアス・シュペリンク、インヴェルニッツィ(ソプラノ)ほか&ケルン声楽アンサンブル、カペラ・アウグスティーナ。2006年の録音。あまり演奏されないオラトリオだそうだが、なぜそうなのかがまったく意味不明だと思えるほどに素晴らしい。HMVあたりで検索しても出てくるのはこの盤がやっと。naxosのライブラリにはほかにシャンドール盤(http://ml.naxos.jp/album/hcd11660-62)というのがある。

トビアは旧約聖書に登場するトビトの息子(外典『トビト書』)。トビトは善人・義人なのだけれど、捕囚時代に仲間を埋葬したとしてすべてを取り上げられ、さらにスズメの糞で目をやられて盲いてしまう。さらにまた、その兄弟の娘が悪魔に取り憑かれ、結婚相手が次々に殺されていた。で、神はラファエルを送ってトビトの息子トビアと旅をさせ、トビアは途中で遭遇する巨大魚を倒して、その内蔵を使って娘に取り憑いていた悪魔を追い払う。最後にトビトのもとに帰り、やはりその魚の内臓で目を治癒させる……。このエピソードは絵画では様々に描かれているものの、音楽作品としてはあまりないようで、ライナーによるとルイジ・ボッケリーニの兄弟であるジョヴァンニ・ガストーネ・ボッケリーニが逸話の再構成を行い、トビアの帰還部分に焦点を合わせ、回想の形で逸話を語っていく手法になっているという。ウィーンでの初演はウケたものの、再演はままならず(聴衆の好みの変化や長さのせいとか)、その後に短縮の形でスコアが改編されたという。というわけで、この録音でも使われているのは1784年の改訂版。うーん、ドラマチックな要素がないわけでもないし、曲は様々に盛り上がるし、ライナーからもなぜ演奏機会がこれまで少ないのかという話は見えてこない……。謎だ(笑)。

↓wikimedia commonsから、『トビトとアンナ(山羊の子を盗んだとアンナを叱責するトビト)』、レンブラント画、1626年、アムステルダム国立美術館蔵。