中世後期のチェコの医学

15・16世紀の中世チェコの医学書をもとに当時の診断について特徴をまとめた英語のごく短い論考を読む。ダヴィド・トミチェク「中世後期の文献に見る診断」というもの(David Tomicek, Diagnostics in Late Medieval Sources, Prague Medical Report, Vol. 110 No. 2, 2009, p. 120–127)(PDFはこちら)。中世のチェコとはまた、なかなかエキセントリック。ほとんど馴染みがないだけになにやら新鮮だ(苦笑)。最初のところで西欧中世の病気の定義についてのまとめがあり、15・16世紀にまで受け継がれたその特徴として、病気を四体液のアンバランスで捉えようとするガレノスの理論と、病気を超自然の介入によるものとする宗教的な概念とが挙げられている。さらには民衆レベルでの病気の擬人化なども指摘されている。それに続き、論考のメインの主題であるチェコの15世紀の写本、16世紀の印刷本の解説が展開する……というかこれは単に紹介どまりという感じで少し物足りない気も。気になる記述としては、論考の主眼点でもある次の二点が挙げられる。つまり、当時はとりわけ尿の検査と脈をはかることが重要視されていたということと、診断が個別的な病気を特定するという方向よりも、むしろはっきりとした徴候に乏しい健康そのものの問題領域に関わろうとしてたこと(たとえば発熱があった場合に、それを見てどの種類の発熱かを問うのではなく、熱っぽい状態そのものが症状として問題にされた云々)だ。この後者の点には、病気と健康を相補的な二極として見るガレノスの影響が色濃く出ている感じがする。

↓wikipedia commonsから、血管を描いた13世紀の解剖図。