ルルス主義

昔ちょっと眺めたことがあるものの、ほぼ忘れていた一冊が最近新装で復刊した。パオロ・ロッシ『普遍の鍵』(清瀬卓訳、国書刊行会)。基本的には、ライムンドゥス・ルルスの「結合術」(ars combinatoria)が一つの大きな伝統を形作り、近代初期の記憶術やその後の普遍言語探求などの流れの一端を担ったという話がメインストリームなのだけれど、今回もざっと目を通してみて改めて思ったのは、ルネサンス期の記述は全般になかなか手強く、触れる事項が多岐に及んでいてなかなか消化できないということ。事項や人物名が次々に繰り出されるのは博覧強記の著者にありがちだが、読む側もそれなりの準備というか予備知識がないとちょっと辛いものがある。そんなわけで同書は個人的に、あくまでルルス主義の流れへの注目を説く一冊という超簡素な位置づけになってしまい、それは今回も変わらずじまいだった(orz)。でもまあ、そういう観点からしても原著は1960年ということでもあり、ルルス主義の最近の研究はどうなっているのかしら、との関心を呼ぶのはまちがいない。

ネットの検索によく引っかかるのはヒルガースの研究書(『14世紀フランスにおけるライムンドゥス・ルルスとルルス主義』)など、いくつかの70年代の書籍が多い。うーん、70年代ものか、と思っていたら、「ルルスとは誰だったのか」(“Who was Ramon Llul?”)というサイトにルルス・データベースなるものがあることを知る。『ルルス研究』(Studia Lulliana)という論集の掲載論文一覧など、書誌情報が満載だ。ルルスの著作やルルス主義関連の著作も数多くデジタル化されているみたいで素晴らしい。余談だけれど、この「ルルスとは誰だったのか」は導入の解説も簡素でいい感じ。たとえばルルス主義のタブでは、初期、ルネサンス、17・18世紀とわけて、ルルス主義の大まかな流れを紹介している。中世の部分を見ると、パリ大学は14世紀後半にルルスに異端の嫌疑をかけ、その後1416年にアヴィニョンの教皇庁が免罪とするも、15世紀を通じてルルスとその著作には異端的な影がついてまわったが、一方の、マヨルカとバルセロナにはルルス思想を教える学派(というか学校)があり、異端審問の時代にもかかわらずルルスの術が教えられていた、とある。神学に適用されなければよいということだったらしい。いずれにしてもこの学派(学校)についてなど、もうちょっと知りたいところ。