「モスラの精神史」

堀田善衛がらみで読み始めたら、止まらなくなってしまったのが小野俊太郎『モスラの精神史』(講談社現代新書、2007)。堀田のほか、中村真一郎、福永武彦のフランス文学系作家が「モスラ」の原作小説の生みの親だということは聴いたことがあったけれど、詳しい話は知らなかったなあ。著者はその原作小説と出来上がった映画(1961年)を丹念に読み込み、そこから両作品世界が映し出している様々なレベルの意味作用を焙り出してみせる。我の怪獣に仮託された養蚕にまつわる日本的意味、モスラがいる南海の孤島の神話的意味(ザ・ピーナッツの歌うモスラの歌はインドネシア語なんだそうだ!)、モスラが国内に登場し破壊していく地誌の背景的意味などなど、どれも興味深いものばかり。サブカル(と言うと語弊があるが)的事象に、文学研究のある種の正統なメソッドを当てはめることによって、とても奥行きのある作品解読が結実するという見事な事例かしら。うん、扱う対象は違えど、これはいろいろ参考になる、というか大いに刺激を受ける(笑)。ちょっと個人的に残念だったのは、堀田への言及がことのほか少なかったこと。とはいえ、最後にはジブリの宮崎駿(堀田の作品集がジブリで再刊されているわけで)との絡みなどもあって、とても興味深かったり。