ザクセンのアルベルト

ユルゲン・ザルノウスキー『アリストテレス的・スコラ的運動理論』(Jürgen Sarnowsky, “Die aristotelisch-scholastische Theorie der Bewegung”, Aschendorff, 1989)という本を古書で入手。副題は「ザクセンのアルベルトによるアリストテレス『自然学』注解の研究」。結構分厚いのだけれど、場所論がらみの箇所を中心に見ているところ。ザクセンのアルベルトは14世紀にパリ大学ほかで教鞭を執った人物で、ジャン・ビュリダンなどの影響を強く受けているとされる。ちょうど先日取り上げたデュエム抄録本の場所論を扱った部分でも取り上げられているけれど、そこではビュリダンというよりは、オッカムの議論を引き継いでいるという扱いになっている。で、このザルノウスキー本の場所論部分も、そのあたりをより詳細に検討するという内容になっている。

アリストテレスに端を発する、場所を形相的なものと質料的なものに区分し(いずれも物体と見なしている)、前者を不動、後者を可動とみる議論(トマスの解釈を受けて弟子筋のローマのジル(アエギディウス・ロマヌス)が説いた)は、ビュリダンその他によって否定されているというけれど(デュエム)、アルベルトになるとどうやらそうした区分を、「自然物に不動のものはない」みたいな話でもって、ある種の相対主義のような形で定義し直すようだ。「天空と地球が同じ方向に同じ角速度で動いていれば、地球に対する天空の位置は変わらない」なんて一文もあるらしい(ちょっとビックリしますね、これ)。うーん、こりゃなかなか面白そう。さらにこれまた先のド・リベラ本でも、最後のほうで、アルベルトは「事態」論を付帯論的に刷新したニコル・オレームを引き継いでいるみたいな話が出てきた。なにかこう、どこか媒介者的な立ち位置を感じさせるものがある。