フランシス・イェイツ伝

明けて2013年。今年もゆったりまったりと取り組んでいくことにしよう(笑)。というわけで、まずは年越し本の一冊。今年は積ん読になっていたマージョリー・G・ジョーンズ『フランシス・イェイツとヘルメス的伝統』(正岡和恵ほか訳、作品社)。イェイツがどのようにヘルメス的伝統を見出していったのかが全体の鍵になるのかなと思っていたのだけれど、案外そのあたりはさらっと流されている印象(?)。むしろイェイツの嗜好についての話が何度か繰り返されて興味を誘う。ロマン派やラファエロ前派、中世神秘主義への傾斜などが、ヴィクトリア朝の因襲などの堅苦しさに抗する姿勢と相まって「意味と霊感への渇望を満たした」(p.121)とされている。さらに興味深いのは、どうやらそれはイェイツだけに限った傾向ではなかった、という点。第七章では、それがエリザベス朝イングランドやイギリス・ルネサンスの研究に携わった在野女性学者の系譜全体に言えることとしてまとめられている(p.187)。多くの女性たち(作家や歴史家)がイタリア、ルネサンス、ジョルダーノ・ブルーノに惹きつけられたのは「イタリアの美を越えた、さらにその先にある霊的な含蓄だった」(p.190)という。19世紀のブルーノ研究者イザベッラ・フリス・オッペンハイム、同じくブルーノ論のアイサ・ブラグデン、ウォーバーグ研究所の同僚ドロシー・ウェイリー・シンガー、ルネサンス史家ジュリア・カートライト、ジョン・ディー研究のシャーロット・フェル・スミスなどなど……。ほかにもまだまだあまり馴染みのない、イェイツと同時代の女性研究者の名が連ねられている。うーむ、その系譜への言及こそが、個人的にはこの本の一番の収穫という気がする。いずれにせよ、こうした研究者の評伝というのもなかなか面白そうなテーマだと年頭から再認識する。