ブラッドワーディンと異教的風土?

Hermétisme et Renaissanceエウジェニオ・ガレンの小著『ルネサンスのヘルメス主義』を仏訳版(そちらはタイトルが『ヘルメス主義とルネサンス』になっている)(Eugenio Garin, Hermétisme et Renaissance, trad. B.Schefer, Editions Allia, 2001)でざっと見していたら、「一四世紀の著名な著者たちにヘルメス主義もしくはそれに近い筋の文章や教義が散見されたり、あるいは科学と哲学問題、宗教と哲学、形而上学と魔術の出会いが散見されたりする」とあって、例としてトマス・ブラッドワーディン(1300頃〜1349)が挙げられていた。ブラッドワーディンはこのところにわかに注目しつつあっただけに、個人的に少しばかり盛り上がる(笑)。とはいえ、自然学的著作『運動の速度間の比について』も、神学的著作『ペラギウス主義に対する神の原因、および原因の力について』もまだ積ん読状態なのだけれど……(苦笑)。で、ガレンの記述によれば、この後者(1344年成立)のほうに、『アスクレピオス』から『事物の六つの原理について(ヘルメス・メルクリウス・トリスメギストス)』『エメラルド板』にいたるまで、ヘルメス文書の幅広い引用があるのだという。しかもブラッドワーディンのこの書には、1356年にフランチェスコ・デ・ネルリという隠修士(フィレンツェの学問所の教師)の手による壮麗な写本があり、ヘルメス文書の引用が強調もしくは注釈されているのだそうな。ガレンによるとこれは、「『異質な』類のテーマへの強い好奇心を示す文化的土壌」に位置づけられるのだという。なるほど、異教的なものを志向するような動きは、やはり脈々と受け継がれていたというところか。ブラッドワーディンと合わせて、一四世紀の「異教的なもの」の関わりについても少し探りを入れていきたいところだ。