情念の分類から情動主義批判へ

感情とは何か: プラトンからアーレントまで (ちくま新書)清水真木『感情とは何か: プラトンからアーレントまで (ちくま新書)』(筑摩書房、2014)を読んでみた。感情の問題を扱っているものの、心理学ではなく、純然たる哲学・哲学史からのアプローチになっている点で、小著だけれども、山椒さながらピリッと辛い好著。要は哲学史的な見地から、古代から近代までの各思想家たちが「感情」(情動、情念)の問題にどうアプローチして今にいたっているのかをまとめているわけなのだけれど、そのまとめ方、話の展開がある意味ドラマチックで興味深い。様々な著者の「感情」論が俎上に載せられていくのはもちろんなのだけれど、必ずしも年代順ではなく、論じられるその都度のテーマに沿って行きつ戻りつしつつ、幅広いパースペクティブがカバーされるという趣向のようだ。もちろんそこには一本のメインストリームも敷かれている。感情の問題を始めてテーマ化したとされるのはストア派だというが(一章が割かれている)、前半のハイライトをなしているのはなんといってもデカルトとマルブランシュ。デカルトは感情を基本的に「驚き」として規定し(それは感情の契機の順番として一番最初にくるとされる)、一方のマルブランシュは「悦び」を中心に据えて捉えようとする、と。いずれにしても一七世紀ごろまではそうした感情の分類と順番(この順番というのがデカルトのオリジナルなのだそうだが)が主要な問題になっていたのに対して、その後の時代では、むしろ情動主義(感情が価値判断に先立つという立場)とその批判が主軸をなすようになっていくのだという。同書もまた、それに沿った形で、情動主義に依って立つとされる「感情についての科学的理解」や、ある種の分析哲学的な情動主義などを批判していく。そればかりか、情動主義の大元と見なされるヒュームに立ち返って、そこから反情動主義的な思想、つまり感情が理性から独立した道徳的判断、すなわち情念の反映であると説いている点をつかみ出してみせる。後半のハイライトは、なんといってもそのあたりの妙味かな。