学芸部(13世紀)の空気?

今年の5月にパリの社会科学高等研究院(EHESS)で行われたらしいシンポジウムでの発表原稿の一つが公開されていて、論文ですらないものなのだけれど、これがなかなか味わい深い。ステファンヌ・ムラによる「学知は可能か−−一三世紀パリの学芸部における<魂の学>の位置づけ」(Stéphane Mourad, La science est-elle possible ? Le statut de la scientia de anima à la Faculté des arts de Paris au XIIIe siècle)というもの。基本的には、ジエル、ステンベルゲン、バザンの共著『アリストテレス霊魂論への三逸名注解』(Trois Commentaires anonymes sur le traité de l’âme d’Aristote, Publications universitaires Béatrice Nauwelaerts, 1971)収録のテキストを読み比べてみるという趣向(さらに参考として、ボルドーの写本も挙げられている)。収録された霊魂論は、立場こそ違えど、いずれも同じファミリーに属する雰囲気(空気)を共有しているのだという。さらにそれらのテキストからは、魂論が神学に次ぐ重要な学知として位置づけられていることが見てとれ、しかもアリストテレスが人間霊魂について述べたことを学ぶという姿勢(狭義の霊魂論)から、学知全体への省察へと移行している様子が窺えるのだという。そのあたりの反省的知見は、当時の文脈において、神学という上位学問に対する学芸部の教師たちの、一種の劣等感を表しているかもしれないともいう。なるほど、そういう意味での「空気」ということか。発表原稿だけに、詳しい議論などは省かれているけれど、もしその「空気」というあたりを深く掘り下げるのであれば、それはぜひ論文の形で読みたいところ。