サイエンス外フィクション?

Métaphysique et fiction des mondes hors-scienceメイヤスー『形而上学とサイエンス外世界フィクション』(Quentin Meillassoux, Métaphysique et fiction des mondes hors-science, Aux Forges de Vulcain, 2013)という小著を読む。基本的には講演をもとにしたものらしい。メイヤスーの極限的な偶然世界論は、まさに極北たる哲学的世界観でもってなにやら現実世界の向こう側(妙な言い方になってしまうけれど)を思わせるものだけれど、それを何らかの形で現実世界の諸相へと繋ごうとする試み……なのかしら(?)。ここではさしあたり自説を説話的世界へと持ち込み、文学的なジャンルの刷新を促そうとしている。ヒュームの懐疑論(法則の一定性はどう担保されうるのかという問い)を受けて、メイヤスーはポパーの認識論的な不定性による回答や、カントの超越論的な批判を斥ける。いずれも、突き詰めれば法則が支配する安定的世界、あるいは法則が変わろうとも意識は不変だという世界を前提としているからで、メイヤスーはヒュームの問いかけに、法則と意識の両方について定常性がない世界を描き出すという別種の想像力を見る(ここまでは前著の通り)。で、これを説話の世界に応用すれば、従来のサイエンス・フィクション(それも法則もしくは意識の安定性を前提とした小説世界だ)とは別様の、「サイエンス外フィクション」もしくは「サイエンス外世界フィクション」なるものが成立しうる、というのだが、うーん、それは作品的にはどうなのだろうか……(笑)。その先駆的作品として、メイヤスーはアシモフの短編『反重力ビリヤード』を挙げており、仏訳版が同書の巻末に収録されている。ほかにも、一部そうしたサイエンス外フィクションに足を踏み入れている「移行的」SF作品として、ロバート・チャールズ・ウィルソンの『ダーウィニア』(これは未邦訳?)、ダグラス・アダムズ『銀河ヒッチハイク・ガイド』、フィリップ・K・ディック『ユービック』などが挙げられている。後者二つはもちろんファンも多い作品。さらにプロトタイプ的なサイエンス外フィクションとして、ルネ・バルジャベル『荒廃』(未読)も取り上げられている。サイエンス・フィクションの世界設計ををさらにずらしていくことが、その要件ということのようだが、それが新たなジャンルになるかと言われれば、うーむと唸るしかしないような……(苦笑)。