映画:17世紀の題材

カンヌ映画祭が始まっているけれど、今年はコンペティション部門に17世紀の題材を扱った作品が2つも入っている。一つはジャンバティスタ・バジーレ(1566-1532)の『物語の中の物語』を原作とした、同名のマッテオ・ガローネ監督作品。でもこれ、トレーラーを見る限り、歴史もの風なダーク・ファンタジーという趣き(?)。フォーレが背景に流れているが、これはどうなのよ、という感じがしなくもない……(笑)。原作とされている説話集は、イタリア語の統一に押されてナポリ語(ナポリ方言)が衰退しつつあったことを嘆いたバジーレが、ナポリ地方の説話を収集したもので、バジーレの死後にボッカッチョに倣って『ペンタメローネ(五日物語)』と改題されたのだとか。バジーレもちょっと面白い人物らしく、貧しい家の出だったために傭兵をしながら各地を転々としていたのだという。軍人であり詩人でもあった、というわけだ。ちなみに『ペンタメローネ』は95年に大修館書店刊行で邦訳が出ている(杉山洋子、三宅忠明訳)。さらに2005年に文庫化されてもいる(ちくま文庫)。Kindleでイタリア語版(Lo cuntu de li cunti – Il Raconto dei Racconti)も出ている。うん、ちょっと面白そうだ。

もう一つは、17世紀初めのノルマンディーで起きたインセスト事件。ラヴァレ家のジュリアンとマルグリットという兄妹が、1603年にインセストの罪で処刑されたというもので、19世紀に作家のバルベー・ドールヴィリが短編『歴史の一頁(Une page d’histoire)』で取り上げている(これは原文がWikisourceで読める)。さらに20世紀に入り、70年代初頭にトリュフォーがその映画化を企画したものの頓挫していたが、それを今回、ヴァレリー・ドンゼッリが監督し『マルグリットとジュリアン』として完成させたという話だ。これまたトレーラーで見る限り、こちらは話が近代に置き換えられている模様。それぞれのアプローチの違いも興味をそそる。