アウグスティヌス主義とエピクロス主義

経済学の起源: フランス 欲望の経済思想米田昇平『経済学の起源: フランス 欲望の経済思想』(京都大学学術出版会、2016)を見始めているところ。まだ全体の3分の1程度だかけれど、すでにしてこれはなかなか面白い。近代経済学の祖といえばアダム・スミスだけれど、そこで展開された諸テーマ(自由主義、レセ・フェールなどなど)は、それに先だって17、18世紀のフランスの思想に見出されるという。そのベースとなったのはジャンセニスムに代表されるアウグスティヌス主義。けれども、ジャンセニスムの人間観は現世の人間をネガティブに捉えるのが特徴だったはず。それがどのように世俗の財の追求を肯定するように転換したのかはとても興味深い問題だ。同書では、ポール・ロワイヤル修道院のピエール・ニコル(1625 – 95)、ジャンセニスムの影響を強く受けた後に法曹界に生きたボワギベール(1646 – 1714)、『蜂の寓話』で知られるマンデヴィル(1670 – 1733)などを通じて、神の意志を通じて現世での人間の営みをポジティブに捉える議論が浮かび上がっていく様を追っている。それにしても、このネガからポジへの反転にはどこか「腑に落ち無さ」のようなものがついて回る。同書の著者も冒頭で、ガッサンディなどに代表されるようなエピクロス主義と、上のアウグスティヌス主義との邂逅について示唆しているけれど、まったく異なる両者の出会いというのはやはり気になるテーマだ。ストア派を共通の敵として合一へのうねりが生じた?うーむ、そのあたりには微妙な違和感のようなものが漂い続ける気がするのだが……?