ホメロスと海 – ストラボンの地理学冒頭

Geographie: Introduction Generale, Livre I (Collection Des Universites De France Serie Grecque)少し前にストラボン『地理学』の最終巻を一通り読み終えた。あまり精読という感じではなかったのだけれど(字面を追っただけ)、それでもナイルからエチオピア方面まで、地誌、植生、動物、風習、宗教などなど、さながら博物学のような記述がとても印象的だった。で、その勢いで今度は冒頭(第一巻第一章)から見ていくことに(Strabon, Géographie: Introduction Générale, Livre I (Collection Des Universités De France Série Grecque), Les Belles Lettres, 1969)。この冒頭部分もなかなか興味深い。地理学の嚆矢は誰かという問題に、ストラボンは躊躇なくホメロスと即答する。で、さらに興味深いのが、ホメロスによる居住域の記述に関連して、ストラボンがまずはその周辺を取り囲む海を取り上げていること。ホメロスの記述と後代の人々(ポセイドニオス、クラテス、ヒッパルコスなど)のコメントを突き合わせる形で、とりわけ後代の人々を批判したりしながら話は進む(海流の話、海が循環的に連続している話、内海の話……)。そこから詩人論(地理学が博識が必要とされ、詩人こそがそうした博識をもつ賢者とされる)、詩作論(さながらオデュッセイアの地理学的な検証か?)にも接近していく感じで、このあたり、なんの本だかわからなくなるほど。個人的にも、ちょっとこのあたりでいきなりホメロスに寄り道をしようか、なんて思いが沸いてくる。