ソローを読む

市民の反抗―他五篇 (岩波文庫)19世紀の作家ヘンリー・ソローというと、『森の生活』ばかりが有名という印象だけれど、もう一つ忘れてならないのは、反抗的人間という側面もあるということだ。というわけで、いまさらではあるけれど、意外だった米国の大統領選以来、ちびちびと市民の反抗―他五篇 (岩波文庫)』(飯田実訳、岩波書店、1997)を改めて読んでいるところ。この表題作「市民の抵抗」がやはり凄まじい。基本的に大きな政府を批判しているということで、ソローは一時、新自由主義(というかリバタリアン?)の連中の議論で取り込まれたりもしていたそうなのだけれど、そんなチンケな枠組みに押し込めて矮小化できるような論者ではまったくない。不正を働く(戦争など)ような政府をそもそもいっさい認めず、日和見的な態度を一蹴し、一言で言って積極的で孤高の否定を貫く。連帯に向けて行動する人ではない。ただひすら散発的に反抗を示すことが、たとえそこに相互の連携がなくとも、大きなうねりの発端をなすのだという信念に貫かれた人物像だ。巻末の解説にも、これは同じく所収の「ブラウン大尉を弁護して」についてのコメントだが、ソローは決して、納税拒否のような穏当な手段による平和革命、非暴力的不服従運動を提唱しているわけではないと記されている。そんなわけでカミュなどともまたずいぶん違う印象の、アメリカを憂うしなやかな知性といったところか。で、その精神はどこか今なおアメリカに息づいている気がしなくもない(トランプ選出後の人々の動きとか)。それは少しうらやましいところでもある……。