ラモン・リュイ

物語 カタルーニャの歴史 知られざる地中海帝国の興亡 (中公新書)空き時間読書として眺めているのが田中耕『物語 カタルーニャの歴史 知られざる地中海帝国の興亡 (中公新書)』(中央公論新社、2000)。独立をめぐる住民投票以来注目を浴びたカタルーニャだが、同書はそのはるか以前、中世のカタルーニャ史をドラマティックに語る良書。史実や伝説が様々に散りばめられ、細かな「演出」が施されており、なかなか読ませる。こういうのは語りがしっかりしていないと「痛い」記述になってしまったりもするが(そういう本も案外多い印象だが)、同書にはそういう感じはない。最初はジャウマ1世(ハイメ1世)から続く一族の歴史に焦点が当てられる。それに続くのがラモン・リュイ(ライムンドゥス・ルルス)の生涯だ。なるほどルルスは、ジャウマ1世および2世に仕えたのだったか。すっかり忘れていたが、イスラム教徒を改宗させるためにあえてアラビア語を学んだり、アフリカへ渡ったりと、やや破天荒ともいえる「行動する人物」でもあった。ルルスはまた、「カタルーニャ語の父」とも言われていたのだったっけ。同書では騎士道物語として執筆されたルルスの「小説」が紹介されている。ルルスは思想史的にはアルス・マグナ(記号操作のある種の先駆的メソッド)のほか、神秘主義者として知られていたりするが、どうも後世において実像とかけ離れたイメージが拡散していったようで(錬金術やオカルトなど)、そのあたりの伝播の過程には前から興味をもっていた。おそらく詳しい研究もなされているだろうと思うので、比較的近年のものを中心に、少し論考を探してみたい気もしているわけなのだが、なかなか時間が取れないでいる。今年の目標の一つ(毎年そう思っていたりもするが……)としておこう。カタルーニャの地域的な特殊性との関連というのも、案外面白いテーマかもしれない。