「古楽 – バロック以降」カテゴリーアーカイブ

リュート関連2枚

このところリュート関連ものを2枚ほど聴いている(実は3枚なのだが、とりあえず紹介は2枚にしておこう。もう1枚はちょっと……(苦笑))。まず1つめはラファエル・アンディアによるバロックギター演奏の『ロベール・ド・ヴィゼー、ギター組曲集』(“Robert de Visée: suites de guittare”)。ド・ヴィゼーは17世紀から18世紀初頭にかけて活躍した作曲家、テオルボ奏者だけれど、案外詳しいことは知られていないようで、リュート曲のほかにギター曲も手がけている。当時のルイ14世の宮廷では、リュートよりもギターが人気を博していたというけれど、そういえば以前、そのあたりのレパートリーは埋もれたままだという話を聞いたことがあったっけ。ライナーによると、ド・ヴィゼーは1682年に「王に捧げるギターの書」を刊行しているほか、86年にも「ギター曲集」を出しているのだとか。で、このCD、実は1986年の再版。ライナーにもあるように、研究姿勢が前面に出ている感じの演奏で、表現はやや硬めというか(音質がというわけではないけれど)……でも、フレンチ・バロックのうねり方を味わうという意味ではそれなりに面白い。

もう1枚はポール・オデットの新作だけれど、こちらも一種の研究もの(?)。『リュート音楽–メルキオル・ノイジドラー』。ルネサンス期のドイツ式タブラチュアというのはかなり特殊で、なんと全フレットにアルファベットないし数字が振り分けてあるという、ちょっとフランス式やイタリア式にくらべて合理的とは思えない方式(笑)。これは解読するだけで大変だろうなあ、と。で、ドイツ式はプロの奏者にとってもまさに未踏の領域になっているようだ。というわけなのか、オデットも16世紀のノイジドラーに挑んでいる。演奏は実に淡々としたもの。最近のオデットはまたこういう、装飾などを抜きにしたスタイルになっているのかしら。曲はとくにゲルマン的な感じもなく、どこか慣れ親しんだ旋律で、聴きやすいけれどこれといった特徴は感じられない曲想かも(苦笑)。ちなみに、父親ハンス・ノイジドラーもリュート奏者・楽器製作者なのだそうで、教則本などを出版しているのだとか。下のジャケット絵は、バルトロメオ・パッサロッティの『リュートを弾く男』(1576:ボストン美術館所蔵)。

M.Neusidler: Lute Music -Wie mocht ich frohlich werden, Ricercar Terzo, etc / Paul O’Dette

復元と実演 〜古楽への雑感

昨日は毎年恒例のリュート発表会。なんだかリュート習いの一年の締めくくりと、新しい一年の幕開けという感じで、これがないと年が越せない、みたいな(そういえばちょうど旧暦の正月だっていうし)(笑)。今年はバロックリュートで、教本からタウセアナ(?)のプレリュード2曲と講習会でやったド・ヴィゼーのラ・モンフェルメイユ。ちゃんと弾ければ美しい曲。が、相変わらずコケまくり(いつものことか……)。ま、さらっと忘れて次に行こう(笑)。

打ち上げの宴会で出た話の一つに、復元か実演かという話題があった(前にも出たっけね)。古楽演奏ということで、ガット弦を張るなどのオーセンティシー追求という動きもあるわけだけれど、それと音楽的に意味のあるパフォーマンスとは、やはりどこか次元が違うことなのではないか、というわけだ。ま、両方のアプローチがあるわけで、本来は両者の往還が理想的なのだろうけれど、なんだか個人的には、先に取り上げた加藤信朗『アウグスティヌス「告白録」講義』に出てきた、哲学的アプローチ(分析的・分解的)とアウグスティヌスの全体的アプローチ(全体知)との違いや、「教説としての神学」と「探求としての神学」の差などにも通じるものがあるなあ、などと思ってしまった。そう、同書の興味深い点の一つは、アウグスティヌスのアプローチを東方的伝統の枠から理解を試みた点にあった……。

というわけで、この後者のホーリズム的アプローチはときに東洋的(東方的?)なものとして、空間的・水平的に位置づけられたりもするわけだけれど、当然、こういう(習い事のような)身体感覚が絡む領域に通底するという意味では、累積的・垂直的にも位置づけられる。西欧の学知のアプローチが、そうした身体感覚的なものの上に分析的なものを積み重ねているのは誰もが知るところだけれど(日本の伝統芸能などは、身体感覚的なものの上に、それを身体感覚の内発的な合理性みたいなものをさしずめ非分析的に積み上げる、という感じかしら)、古楽の復興なんて言い方がなされるのも、それが分析的・分割的アプローチから成り立っているという意味では、とても西欧的なものだという気がする。実際、日本の和楽器とか伝統音楽とか、「古楽の復興」みたいなアプローチで捉えようとはしないわけで(笑)。そんなことを考えると古楽系のいうオーセンティシー概念がなんとも狭苦しいものにも思えてきたり……。

写真は発表会出陣前の愛器(笑)。

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シャルパンティエのノエル

ちょっと季節的に一ヶ月ほどずれてしまうけれど(笑)、マルク・アントワーヌ・シャルパンティエのクリスマス・カンタータ集を購入し、このところ聴いている。”Noel” – M.A.Charpentier: Christmas Cantatas / Kay Johannsen, Ensemble 94, Solistenensemble Stimmkunstという一枚。なかなか端正で落ち着いたパフォーマンス。シャルパンティエはイタリアでカリッシミに師事したといい、その功績としてはイタリアで盛んだったオラトリオ形式をフランスに紹介したことにあるというのだけれど(ライナー)、17世紀のフランスでこれを受け継いだ者はいなかったのだそうで。曲そのものもいいけれど、なにやらそういう孤高な境遇とかにも惹かれるものがあるかも(苦笑)。

ジャケット絵はパリのルーヴルにあるシャルル・ポエルソンなる画家の『キリストの降誕』とのこと。こちらのルーヴルのページをどうぞ。シャルパンティエのほぼ同時代人らしいけれど、詳しいことがよくわからない。そういえば、シャルパンティエもその生涯は微妙にわかっていないとかいう話だったっけ?うーむ、謎が多いねえ。

トリゴナーレ2006

昨年聴いた盤のうちでもなかなか印象的だったのがトリゴナーレ2007のCD(昨年の10月のアーカイブを参照のこと)。で、これに続き同じくトリゴナーレの2006年のCDもゲットしてみた。『ツァイト』(Trigonale 2006-Zeit / Jordi Savall, Montserrat Figueras, Arianna Savall, Amsterdam Loeki Stardust Quartet, Hopkinson Smith, Herve Niquet, Le Concert Spirituel, etc)がそれ。2枚組。まず1枚目はおなじみジョルディ・サヴァールの一家による演奏から始まる。各地の伝承曲の数々だ。お〜、これはいつぞやの来日公演でもやった曲たちだな。カタロニアの伝承曲(フェラン・サヴァールの現代的アレンジ)とか、アリアンナ・サヴァールのオリジナル曲とか、なんとなく記憶に残っているぞ。会場の音とか入ってライブ録音が臨場感を盛り上げる……うーん、でも間に別の団体のコンサートを入れる編集って……(苦笑)。その間に入っているのは、オブレヒト、スザート、スウェーリンクなどのリコーダー曲、バッハのオーボエ・ダモーレ協奏曲など。そこから再びサヴァール一家に戻って、哀愁漂うイスラエル民謡で締めくくる……これがまた、こんな政治情勢の時に聴くとやけにもの悲しい……。2枚目の冒頭はなんとホピィ(ホプキンソン・スミス)によるリュート演奏。ダウランドの有名どころを少し。会場でなんか咳き込んでるような音が響きまくって、なんだかホピィも大変そうだ(笑)。それに続くのは、エルヴェ・ニケ率いるル・コンセール・スピリチュエルによるアンドレ・カンプラ(1660 – 1744)の「レクイエム」。うわ、これは隠れた名曲かも(笑)。というわけで、トリゴナーレ古楽祭は2006年もなかなか聴き甲斐のあるCDにまとまっている。

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そういえば話は全然違うのだけれど、3月に予定されていたトン・コープマンとアムステルダム・バロック管弦楽団の来日公演は、招聘元が破産でお流れになったそうだ。払い戻しも難しそうな案配(こちらを参照)。うーん、こりゃ前代未聞かも。チケット買うかなあと思っていた矢先だったのでビックリしてしまった。景気後退の余波か……?

新年のヴァイス

明けて2009年。今年もどうぞよろしく。というわけで昨年末もそうだったけれど、年末年始のような節目は個人的にリュート曲を聴いて過ごしたい。今年はとりあえず、毎年出ているロバート・バルトによる全曲録音を目指すシリーズから最新の『リュート・ソナタ第9集』(Naxos、8.570551)(Weiss: Lute Sonatas Vol.9 / Robert Barto)。少し前に購入していたものの「積ん聴」になっていた。今回はソナタ52番ハ短調、32番ヘ長調、94番ホ短調の構成。相変わらず、バルトの円熟味というかなんというか、ヴァイスの曲と濃密な時間を過ごしていることが窺える一枚。リスナー側もそのお裾分けをもらっている感じ。充実した約1時間を味わえる。

今回のジャケット絵はアントニオ・ドメニコ・ガッビアーニ(1652 – 1726)による『リュート奏者の肖像』の一部。フィレンツェの楽器博物館所蔵なのだとか。全体は次のような感じ。
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