Early Greek Philisophy VIII

第8巻はソフィスト(パート1)、ソクラテスも


 Loebの初期ギリシア哲学シリーズ。第8巻はソフィストたちのパート1。プロタゴラス、ゴルギアスといった、プラトンの対話編に登場する人々が取り上げられるほか、ソクラテスも入っています。これがちょっと興味深い点ですね。そのほかにプロディコス、トラシュマコス、ヒッピアス。

 分量的に多く割かれているのはプロタゴラスとゴルギアス。プロタゴラスといえば、やはり「人間は万物の尺度である」という発言が有名です。認識の相対性について述べている、なんて解説されますが、むしろこれは、人間あってこその事物という見方のようで、プロタゴラスは事物の流体的な面と、それを感知する感覚の移り変わりなどを強調していたのかもしれません。セクストス・エンペイリコスなどがそういう感じで解釈していますね。ゴルギアスはまさにレトリックの人という印象を与えます。

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(初出:deltographos.com 2021年10月8日)

権威って何?という一冊

手堅く各種の文献をまとめた一冊


 ミリアム・ルヴォー・ダロンヌ『はじまりの権力——権威についての詩論』(Myriam Revault d'Allonnes, “Le Pouvoir des commencements. Essai sur l'autorité”, Seuil, 2006)のKindle版(https://amzn.to/3FF7UaB)を、このところ読んでいました。年越し本になるかな、と思っていましたが、年内に読み切れました(笑)。 

 一言でいうと、長編の学術論文の見本みたいな一冊で、様々な文献を精読しながら、論を進めていきます。テーマはずばり「権威とは何?」で、初っぱなのあたりから、それが(空間に働きかけるる権力とは対照的に)時間に根ざし広がるものであることを示唆します。この仮説を検証していくのが同書、ということになります。

 ギリシアとの対比からローマ時代に「権威」が初めてテーマ化されることを、アーレントをもとに論じ、近代になって(神々などの)権威の「過去」の源泉が失われたことをルソーやトクヴィルで論じ、新たに権威の根拠として「未来」に目を向ける近代人の指向性を、ウェーバーで論じていきます。なかなか王道ですね。

 ここまでは、社会学的な側面からのアプローチでしたが、そこに、個人の指向性の向かう先としての権威と、制度としての権威のギャップという問題が出てきます(主体と客体、あるいは未来と過去との齟齬です)。それを扱うために、著者は次に現象学へと歩を進めていきます。しかしながらそのギャップは、どの現象学者でもなかなか十分には論じられません(と著者は指摘します)。フッサールしかり、メルロ=ポンティしかり、シュッツの社会現象学しかり。リクールなどの読みも今ひとつ。著者がいうように、果たして制度の問題は、思考が明確に及ばない情動的な外部、過剰、補遺なのでしょうか。著者はそこに、生きる主体がまとう「歴史性」を重ねています。

 

(初出:deltographos.com 2021年12月30日)

聴く読書も悪くない

kindleで聴くカミュとか


 実に久しぶりに(学生時代以来ですかね)、カミュを再読してみました。再読というか、今回はkindleの読み上げ機能(Fireタブレット上)で、フランス語版の朗読(と言っていいの微妙かもしれません)を聴いてみました。コロナ禍で人気が出たという『La peste』です。ずっと昔に日本語で読んだことがあります。たぶん新潮文庫。今回、仏語で聴いてみて、その詩的ながらジャーナリスティックで淡々とした文体が、音声での読み上げに妙に映えることを改めて感じました。これは個人的には収穫です。

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 この仏語版は通常の購入ですが、最近、kindle unlimited(図書館で借りる、みたいな感覚ですが)の冊数制限が20冊までに拡大したので、そちらも一気に利用が進んでいます。少しだけ仏語版もあったりしますが、日本語ものが大半。日本語で読むにしても、kindle unlimitedの文芸作品は古典もの(の翻訳とか)が大半で、いきおい中学生の本棚みたいになってしまいます(苦笑)。で、19世紀から20世紀前半くらいまでの小説などは、今読むとその描写のねちっこさなどが鼻につくし、眼にもきついので、ついつい飛ばし読み的になってしまいます。音声で聴くなら、少しゆっくりできる感じになります。

 そんなわけで、聴く読書というのも悪くないかもしれません。ちょうどAmazonのaudibleのサービスが聴き放題になるみたいですし、ラインアップさえ充実してくれるなら、そちらも一考の価値があるかもしれません。

(初出:deltographos.com 2022年1月26日)

『賃労働と資本』

トリクルダウンなど端からありえなかった


 kindle unlimitedでの読書、今度はマルクスです。『賃労働と資本/賃金・価格・利潤』(森田成也訳、光文社古典新訳文庫、2014)から、とりあえず前半にあたる「賃労働と資本」を読んでみました。マルクス読むのは学部生時代以来、うん十年ぶりです。歳月の流れを感じますねえ。

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 中身的にも、この「賃労働と資本」は『資本論』の最初のほうと重なる感じです。「労働者にもわかりやすいように書いた」と言うだけあって、読みやすいです。資本家がひたすら財をためこもうとし、ほおっておくと労働者に還元することなど金輪際ありえないことを、切々と訴えている感じです。これを読んでも、アベノミクスの異次元緩和の初期段階で盛んに言われたトリクルダウンなんて、最初から起きようがないことがよーくわかります。

 個人的な思い出を言うと、学部生のころ、マルクスの資本論と、マルティネの機能言語学とを同時期に読んだせいか、生産過程を決定づけているとされる二重構造と、音韻の二重分節の話とが妙に呼応し、単一の現象を二重のプロセスとして見る、あるいは読み解く可能性が、深く心に刻まれたように思います。そうした二重性は、ある種の解釈でしかないのかもしれませんが、少なくとも当時は、あらゆる事象に意味論的な構造として実在するかのように感じられ、ひどく高揚したものでした。これ、結構長く尾を引いた気がします。


(初出:deltographos.com 2022年11月6日)

deltographos.comセレクション

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