February 28, 2004

No.27

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
silva speculationis       思索の森
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
<ヨーロッパ中世探訪のための小窓>
no.27 2004/02/21

今週はちょっと多忙で、あまり時間が取れませんでした。そんなわけでちょっと
端折り加減のメルマガです。ご了承ください。

------クロスオーバー-------------------------
調べるプロセス

「ものの調べ方」というのは、学校や職場の新人の頃にみっちり仕込まれたりす
るものです。ところが、入った学校や職場がそういう教育に熱心でなかったり、
あるいは若い時分にはろくに気にもかけなかったりして、後になって苦労したり
する人というのは存外に多いのではないかと思います(笑)。「そんな手順な
ど、自分で考えろ」?はいはい、それはその通りなのですが、時にはガイドがあ
るととても助かったりします。書籍を読んでいてもたまに「こういう風に調べ
た」「これこれの辞書にあたるとよい」みたいな記述に出くわすことことがある
と、なんだかとても嬉しくなってきますね。

例えばヴィトルト・リプチンスキ『ねじとねじ回し』。21世紀を目前に、「こ
の千年で最も素晴らしかった発明について書いてほしい」との新聞社からの依頼
を受けた大学教授が、あーでもない、こーでもないと思索しながら、ねじ回しに
たどりつき、さらにその起源を知るために、オックスフォード英語辞典から、
18世紀パリの美術工芸品辞典、百科全書などに当たっていく様が面白可笑しく
書かれていきます。個人的には、ねじ回しやねじそのものをめぐる話よりも、む
しろそういう過程を描いた部分の方が面白かったですね。

あるいは、宮下志朗『書物のために』に収められた一編「読書という手触り」。
大学の教官として好きなことができるという自由ゼミの枠内で、ダンテの『神
曲』を読むことにした著者が、その七つ道具を披露しています。原典は「ダンテ
協会版」の『神曲』、辞書は『伊和中辞典』+ツィンガレッリの伊伊辞典。さら
にそのCD-ROM版などなど。最近個人的にも原典の『神曲』に当たり始めたこと
もあって、大いに参考にさせてもらっているところです。この書籍には、ほかに
も「ヨーロッパにおける書物史研究」とか「ロジェ・シャルティエを読む方法」
などのいわば<ガイド系>の小編が収録されていて参考になります。

インターネット時代になって、情報は格段に得やすくなったとはいえ、基本的な
資料のたどり方、読みこなし方、整理の仕方などは大きく変わってはいないと思
います。そういう意味では、<ガイド系>はまだまだ需要もあると思います。も
ちろん、あまりにマニュアル化されて味も素っ気もなくなるのは困るのですが、
そうではなく、実体験と、それにより培われたノウハウの一端をわずかでもかい
ま見せてくれる、というのがとても有益な気がします。

○『ねじとねじ回し』
ヴィトルト・リプチンスキ著、春日井晶子訳、早川書房
ISBN 4-15-208504-5

○『書物史のために』
宮下志朗著、晶文社
ISBN 4-7949-6525-7


------文献講読シリーズ-----------------------
「マグナ・カルタ」その4

今回は11条から16条までを見てみます。ちょっと切り出し方が悪かったみたい
で、まずはユダヤ人への債務の話が続きます。

               # # # # # #
11. Et si quis moriatur, et debitum debeat Judeis, uxor ejus habeat dotem
suam, et nichil reddat de debito illo; et si liberi ipsius defuncti qui fuerint
infra etatem remanserint, provideantur eis necessaria secundum
tenementum quod fuerit defuncti, et de residuo solvatur debitum, salvo
servicio dominorum; simili modo fiat de debitis que debentur aliis quam
Judeis.
12. Nullum scutagium vel auxilium ponatur in regno nostro, nisi per
commune consilium regni nostri, nisi ad corpus nostrum redimendum, et
primogenitum filium nostrum militem faciendum, et ad filiam nostram
primogenitam semel maritandam, et ad hec non fiat nisi racionabile
auxilium; simili modo fiat de auxiliis de civitate London.

第11条:任意の者が亡くなり、ユダヤ人への債務があった場合には、その妻は
自分の持参金を手にし、その債務の返済はしなくてよいものとする。また、かか
る故人の子が未成年である場合、故人の残した財産から必要分をその者に当て、
残りを債務の返済に当てる。ただし領主への役分は残すものとする。ユダヤ人以
外の者に対する債務についても、同様に処理する。
第12条:われらが王国では、王国の議会が定める以外、軍役代納金も献金も
いっさい課されないものとする。ただし、人質を取り戻す場合、われわれの長子
を騎士にする場合、またわれわれの長女の初の婚礼を取り計らう場合は例外と
し、その際にも献金はあくまで適切な額とする。ロンドン市からの献金も、同様
に処理する。

13. Et civitas London. habeat omnes antiquas libertates et liberas
consuetudines suas, tam per terras, quam per aquas. Preterea volumus et
concedimus quod omnes alie civitates, et burgi, et ville, et portus, habeant
omnes libertates et liberas consuetudines suas.
14. Et ad habendum commune consilium regni de auxilio assidendo aliter
quam in tribus casibus predictis, vel de scutagio assidendo, summoneri
faciemus archiepiscopos, episcopos, abbates, comites, et majores barones
sigillatim per litteras nostras; et preterea faciemus summoneri in generali
per vicecomites et ballivos nostros omnes illos qui de nobis tenent in capite
ad certum diem, scilicet ad terminum quadraginta dierum ad minus, et ad
certum locum; et in omnibus litteris illius summonicionis causam
summonicionis exprimemus; et sic facta summonicione negocium ad diem
assignatum procedat secundum consilium illorum qui presentes fuerint,
quamvis non omnes summoniti venerint.

第13条:ロンドン市は、古くからの自由ならびに自由な慣習を、水路、陸路の
いずれについても保持するものとする。加えて、他のすべての都市、郭外都市、
村、港も、すべてその自由と自由な慣習を保持するものとする。
第14条:上述の三例の場合以外に、献金もしくは軍役代納金の徴収額を王国の
議会が決定する場合、われわれは大司教、司教、修道院長、伯爵、主たる男爵
を、個別に書状にて召喚する。加えて、地方長官および執行吏、要職にあるすべ
ての者を、しかるべき日付、すなわち少なくとも実施から40日前までに、しか
るべき場所に招集する。招集を伝えるすべての書状において、われわれはその招
集の案件を記す。予定通りに招集がなされたら、全員が来ない場合でも、出席し
た人々の助言内容に即して徴収額を決定する。

15. Nos non concedemus de cetero alicui quod capiat auxilium de liberis
hominibus suis, nisi ad corpus suum redimendum, et ad faciendum
primogenitum filium suum militem, et ad primogenitam filiam suam semel
maritandam, et ad hec non fiat nisi racionabile auxilium.
16. Nullus distringatur ad faciendum majus servicium de feodo militis, nec
de alio libero tenemento, quam inde debetur.

第15条:われわれは他のいかなる者についても、臣下の自由人から献金を受け
ることを認めない。ただし、人質を取り戻す場合、われわれの長子を騎士にする
場合、またわれわれの長女の初の婚礼を取り計らう場合は例外とし、その際にも
献金はあくまで適切な額とする。
第16条:いかなる者も、騎士の封土分、あるいはその他の自由な財産分以上
に、軍役を強要されることがあってはならない。
               # # # # # #

ユダヤ人を身なりによって他から区別するよう定めた第4回ラテラノ公会議が開
催されたのは、このマグナ・カルタが出されるのと同じ1215年のことでした。
それまでもユダヤ人への迫害はあったわけですが、1215年はやはり大きな転換
ともいえそうです。それ以後は、「とんがり帽子」の着用やら「黄色の生地」の
衣服への縫いつけやら、マーク付けは形を変えながら継承されていってしまいま
す(例えば浜本隆志『紋章が語るヨーロッパ史』(白水Uブックス)などを参
照)。一方で、11世紀から12世紀の都市の発展期には、新しい階級としての
「ブジュジョワジー(商人階級)」も台頭し、経済活動の活発化にともなって両
替商などの新たな事業も生まれていきます。社会的な締め付けのために、ユダヤ
人はそうした両替業務、貸し付け業務などへと押し込まれていくのですが、その
中で「あこぎな高利貸し」というイメージも出来上がっていくのでした。上の第
11条と前回の第10条では、ユダヤ人に対する債務への制限が示されているので
すが、「他の債務もこれに準じる」みたいになっていて、ユダヤ人との金銭の貸
し借りがいかに多かったかを示しているようにも思えます。

12条以下の献金の規定ですが、このあたりのコメントはまた次回ということ
で。

投稿者 Masaki : February 28, 2004 07:05 AM