March 27, 2004

No.29

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silva speculationis       思索の森
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<ヨーロッパ中世探訪のための小窓>
no.29 2004/03/20

------新刊情報--------------------------------
ようやく春めいてきましたが、新刊の方もぼちぼちと芽吹いてきている感じで
しょうか(笑)。

○『ザクセン大公ハインリヒ獅子公−−中世北ドイツの覇者』
(MINERVA西洋史ライブラリー 60)
カール・ヨルダン著、瀬原義生訳、ミネルヴァ書房
?5,000、ISBN4-623-03756-8

内容説明には「ザクセン大公ハインリヒ獅子公の生き様と行動、政策、葛藤、そ
して戦いを、興味深いエピソードも各所にちりばめながら生き生きと描写する
」とあります。ハインリヒ獅子公は12世紀に活躍した人物。一大拡張政策で領
土を広げたものの、神聖ローマ皇帝フリードリヒ1世と対立し、追放されてイン
グランドへ亡命するなど、数奇な運命をたどったといいますね。

○『中世ヨーロッパを生きる』
甚野尚志、堀越宏一編、 東京大学出版会
?2,800、ISBN4-13-023051-4

精鋭の歴史研究者たちが、心性史、文化史を中心に綴った中世史の入門書。語り
口は平坦でも、扱われている問題はとても興味深いものばかりです。セクション
別に参考文献も挙げられていて便利な一冊かも。

○『ヨーロッパ中世を変えた女たち』
(NHKライブラリー 181)
福本秀子著、日本放送出版協会
?870、ISBN4-14-084181-8

2001年の放送用テキストの改訂増補版のようです。ようやく単行本化されまし
たね。テキスト版では、アリエノール・ダキテーヌから教会や十字軍関係、ジャ
ンヌ・ダルク、イザベル女王、オスマン帝国の女性たち、モナリザのモデルた
ち、カトリーヌ・ド・メディシス、マリア・テレジアなど、壮観なテーマが並ん
でいました。なんといっても各人物の活写が持ち味です。

○『歴史書を読む 「歴史十書」のテクスト科学』
(historia019)
佐藤彰一著、山川出版社
?1,300、ISBN4-634-49190-7

『歴史十書』というのは、トゥールのグレゴリウス(6世紀)が記したいわゆる
『フランク族の歴史』のことのようです。内容説明は「テクストの分節構造を手
がかりに、著者グレゴリウスがこの史書に託した知られざる意図を解き明かす
」となっていて、どのような解読がなされているのか大変気になります。

○『史料が語る中世ヨーロッパ』
国方敬司、直江真一編、刀水書房
?9,500、ISBN:4-88708-324-6

原史料を駆使した分析をまとめた論集、ということで多岐にわたるテーマが扱わ
れているようです。これもぜひ目を通してみたい一冊ですね。

------文献講読シリーズ-----------------------
「マグナ・カルタ」その6

今回は26条から34条までを見てみます。全部で63ヵ条ありますから、ちょうど
折り返しに差し掛かったところです。

               # # # # #
26. Si aliquis tenens de nobis laicum feodum moriatur, et vicecomes vel
ballivus noster ostendat litteras nostras patentes de summonicione nostra
de debito quod defunctus nobis debuit, liceat vicecomiti vel ballivo nostro
attachiare et imbreviare catalla defuncti inventa in laico feodo, ad
valenciam illius debiti, per visum legalium hominum, ita tamen quod nichil
inde amoveatur, donec persolvatur nobis debitum quod clarum fuerit, et
residuum relinquatur executoribus ad faciendum testamentum defuncti; et,
si nichil nobis debeatur ad ipso, omnia catalla cedant defuncto, salvis uxori
ipsius et pueris racionabilibus partibus suis.
27. Si aliquis liber homo intestatus decesserit, catalla sua per manus
propinquorum parentum et amicorum suorum, per visum ecclesie
distribuantur, salvis unicuique debitis que defunctus ei debebat.

第26条:われわれの世俗の封土を管理する任意の者が死去し、故人がわれわれ
に対して負っていた債務についての指示書を、州知事もしくは執行吏が示す場合
には、かかる州知事もしくは執行吏は、かかる世俗の封土にある故人の財産を、
かかる債務の分だけ、法にもとづく監視人の立ち会いのもとで差し押さえること
ができる。ただし、われわれに対する明らかな債務が解消するまで財産からは何
も差し引いてはならず、債務分を取った残りを故人の遺言の処理に当てるものと
する。また、われわれに対する債務がまったくない場合、財産はすべて故人のも
のとするが、その者の妻ならびに子息のために適切な分与を確保する。
第27条:任意の自由人が遺言を残さずに死去した場合、その故人の財産は近親
者ならびに友人の手により、教会の監視のもとで分配する。故人に債務が存在す
る場合にはその分を確保する。

28. Nullus constabularius, vel alius ballivus noster, capiat blada vel alia
catalla alicujus, nisi statim inde reddat denarios, aut respectum inde habere
possit de voluntate venditoris.
29. Nullus constabularius distringat aliquem militem ad dandum denarios
pro custodia castri, si facere voluerit custodiam illam in propria persona
sua, vel per alium probum hominem, si ipse eam facere non possit propter
racionabilem causam; et si nos duxerimus vel miserimus eum in exercitum,
erit quietus de custodia, secundum quantitatem temporis quo per nos fuerit
in exercitu.

第28条:いかなる高官およびその他の執行吏も、ただちに金銭を支払うか、も
しくは売り手の承諾により猶予を得るのでない限り、穀物その他の財産を手にす
ることはできない。
第29条:いかなる高官も、任意の騎士に対して、その者が城の警備に当たるこ
とを望むか、もしくはしかるべき理由によりみずからは遂行できないため、他の
責任ある人物を警備に当たらせる場合、警備の代わりとして金銭の支払いを強要
してはならない。われわれがその者を派遣し従軍させる場合、その者は、従軍す
る間は警備の業務から解かれるものとする。

30. Nullus vicecomes, vel ballivus noster, vel aliquis alius, capiat equos vel
carettas alicujus liberi hominis pro cariagio faciendo, nisi de voluntate ipsius
liberi hominis.
31. Nec nos nec ballivi nostri capiemus alienum boscum ad castra vel alia
agenda nostra, nisi per voluntatem ipsius cujus boscus ille fuerit.
32. Nos non tenebimus terras illorum qui convicti fuerint de felonia, nisi per
unum annum et unum diem, et tunc reddantur terre dominis feodorum.
33. Omnis kidelli de cetero deponantur penitus de Tamisia, et de
Medewaye, et per totam Angliam, nisi per costeram maris.
34. Breve quod vocatur "Precipe" de cetero non fiat alicui de aliquo
tenemento unde liber homo amittere possit curiam suam.

第30条:いかなる州知事、執行吏、およびその他の者も、任意の自由人の馬ま
たは荷車を、かかる自由人の許可なく輸送のために用いてはならない。
第31条:われわれも、われわれの執行吏も、所有者の許可なく材木を築城その
他の作業に用いてはならない。
第32条:重罪に問われた者の土地をわれわれが保持する期間は1年と1日までと
し、その後は封土の領主に返還するのもとする。
第33条:テムズ川、メドウエイ川、またイングランド全土の梁(やな)は、沿
岸を除きすべて撤去する。
第34条:「訴訟開始令状」と呼ばれるものは今後、自由人がおのれの裁判権を
失う可能性がある場合、誰のいかなる不動産についても発しないものとする。
               # # # # #

29条では城(城壁)の警備業務の話が出ています。中世の城は、まずもってノ
ルマン人が基本的な構造を変化させたのだと言われます。高台に円筒形の天守を
作り、内郭と外郭とを分ける形式はノルマン人によるものなのですね。次いで築
城技術が飛躍的に向上するのは十字軍を経てのことで、アンティオキアなどの城
壁攻略や、その後の現地での城郭建設の経験などから、東方の築城技術が西欧各
地の城にも取り入れられていきます(二重城壁など)。有名どころでは、リ
チャード獅子心王がノルマンディに作ったガイヤール城(http://
perso.wanadoo.fr/jean-francois.mangin/capetiens/fenetres_filles/
chateaux_gaillard.htmの写真参照)や、このガイヤール城の陥落(1209年)
を教訓に巨大な天守を配したクーシー城(http://perso.wanadoo.fr/
chateau.coucy/とか、http://mediev.free.fr/Decors/Coucy/coucy.htmlを
参照)などがあります。

西欧各地の都市が城壁を構えるのも、やはりその頃からだといいます。先に見た
13条では、ロンドンに自由を認める由が記されていましたが、ロンドンが首都
となったのは、やはりノルマンの征服王ウィリアム1世が、その地を拠点にした
ことが始まりとされています。それ以前、国王は絶えず移動していて、まだ首都
という位置づけはなかったのですね。その後12世紀末には、市の外壁を越えて
街が発展していたといい、この頃にはすでに市の参事会などの制度面の整備も進
み、自治権も確立されていたようです。ロンドンだけでなく、各地の都市でそう
した制度が確立されていた当時にあっては、違法な財産や製品の取得(28条、
31条など)や不法な活動(漁業の関する33条など)の取締りなどは大きな懸案
事項になっていたのでしょう。

法律文書はやはり読みにくいものですが、もうしばらくおつき合い願います。次
回は35条から41条あたりを見ていきます。

投稿者 Masaki : March 27, 2004 07:09 AM