2003年11月29日

知恵の翼

今日は久々にヒルデガルト・フォン・ビンゲンの歌。聴いているのは『知恵の翼』(DOR-93232) 。演奏はカンティというグループ。ヒルデガルトの歌(いつもながら惚れ惚れする旋律だ)のほかに、スコットランドの中世の歌も収録している。ライナーノーツによると、インチコーム・アンティフォナと題された歌は、アレクサンダー1世(11世紀のマーガレット王妃が進めたケルト教会の「ローマ化」を引き継いだ)がインチコーム島(Inchcolm)に建てた修道院で、13世紀ごろに書かれたものだろうという。聖コロンバヌスの祝日の礼拝用のもので、またひと味違った穏やかな旋律が心地よい。

さて、ジャケットにはヒルデガルトの大著『スキヴィアス(道を知れ)』の彩色画が使われている。次の写真の上方の部分(ちょっとわかりにくいが)。『スキヴィアス』の挿絵はいろいろ有名なものがあるけれど、これはちょっとマイナーな方かも。『スキヴィアス』の第一の幻視を視覚化したものだ。


投稿者 Masaki : 22:53

2003年11月25日

日本の「古楽器」

例年同様、11月は結構忙しかったりして、いろいろコンサートやイベントに行けなくなってしまう。今年逃したのは「エイジ・オブ・エンライトメント管弦楽団」「クイケン・クヮルテット」など(いずれもモーツァルトもの)などなど……。次回に期待しよう。古楽系以外でかろうじて行けたのはムソルグスキー『ボリス・ゴドゥノフ』だけ(キーロフ歌劇場管弦楽団)。16世紀末から17世紀初頭に実在したゴドゥノフはイワン雷帝後に実権を握った実在の人物だが(農奴制の強化などで悪名も高い(?))、ムソルグスキー(今回のは原典版だという)のオペラはギリシア悲劇風にまとめられている。音楽自体はそれほど面白くないよなあ(ファンの方には失礼)。マリインスキー歌劇場と名称を戻すらしいこの一座、2006年にワーグナーの『指輪』(ツィクルス)で来日するそうだから、それに期待しよう。

例年11月にあって、タイミングが合わず行けていない公演としては、正倉院の渡来楽器の復元版を用いる「天平楽府」の演奏会もある。2001年にNHKが放送したドラマ「聖徳太子」で使われていた劉宏軍(りゅう・ほんじゅ)の曲を集めた一枚『聖徳太子 』(WWCC-7405)を最近ようやく聴いてみた。うーん、言いたい放題言わせていただくと、サウンドトラックってことを意識しているせいなのか、なんだか音の重ね方とか、ミニマル・ミュージック的な技法が感じられたりして、あまり面白くないかも……。現代の一般人が考えそうな「古代の音楽」ってものに媚びている感じ(?)。楽器そのものの音色は面白いんだけどね。

せっかくなので、ジャケットにも使われている正倉院の「螺鈿紫檀五絃琵琶」の写真を。

投稿者 Masaki : 22:49

2003年11月19日

ギヨーム9世

溜まった仕事をバタバタと片付け(ああ、しんど)、今日は『ギヨーム9世 - ポワティエ伯の歌(Las Cansos del Coms de Peitieus)』(Alpha 505)を聴く。ブリス・デュイジという奏者が再現楽器のフィドルを弾きながら、実にのびのびと「ジョングルール」している。ギヨーム9世、もしくはアキテーヌ公、ポワティエ伯といえば、トルバトゥールの始祖とも目される天才詩人。現存する歌(詩)は11曲しかなく、デュイジの解題によれば、音楽が伝えられているのは「Pos de chantar……」で始まる1曲の最初の一節だけだという。となると後はディイジの独創的再構築ということになるわけだけれど、ライナーノーツではその方法論についてはちょっと逃げを打っている(笑)。けれどもこれ、フィドルの弾き語りというだけでもなかなか面白い試みではある。オック語的雰囲気は出ている……のかな?ちょっと表記は異なるのだけれど、オック語のテキスト『トルバドゥール詩華集』(瀬戸直彦編著、大学書林、2003)にもポワティエ伯の作品から3作が収録されている(それぞれ上記アルバムの12曲目、6曲目、11曲目)。オック語の文法などが簡単に紹介されていて興味深い。

投稿者 Masaki : 22:45

2003年11月15日

エグエス

昨日は初来日だというリュート奏者、エドゥアルド・エグエスのリュートリサイタルへ。CDではこれまでバッハのリュート作品集で知られていた演奏家だが、今回の来日公演では前半はロベール・ド・ヴィゼーとジェルマン・ピネルそれぞれの組曲。ヴィぜーのはいかにもフランスという感じの知的な曲想を引き出している感じの演奏。対するピネルは軽快だ。ほとんどコード進行だけみたいな(失礼)サラバンド、さらに伸びやかなシャコンヌが印象的。後半はバッハのチェロ組曲ト長調(変ホ長調に移調)とヴァイスの組曲ヘ長調。バッハはさすが真骨頂という感じのしなやかさで、実にリズミカルな演奏。また注目すべきはヴァイスの解釈。陰影を極力抑えて、明晰さ・均質さを増したという感じのヴァイス(深みがないというわけではない)。うーん、こういうのもありだったとは(笑)。この人のヴァイスばかりの録音というのも将来的には聴いてみたいかもね。

で、会場で新譜の一枚を購入。リサイタルでも演ったヴィゼーの作品を集めた『王の教師(Le maître du Roy)』(M064A、M.A Recordings)。ヴィゼーは17世紀の終わり頃に活躍した宮廷音楽家。当時はリュートやテオルボの人気がかげり、広くギターが「軽音楽的に」人気を集めるようになっていて(ライナー)、そんなわけで、ヴィゼーはルイ14世のギターの教師になったのだという。とはいえリュート、テオルボの曲集も出している。で、この録音、ずいぶんと情感に満ちた響きになっていて、リサイタルとはまた違った赴きだ。

投稿者 Masaki : 22:44

2003年11月07日

心身芸術

先にちょっと触れた『バロック音楽はなぜ癒すのか』.を読んでみる。評判通り、比較文化論的な視点が興味深い。バロック期の踊りや音楽が、東洋の流れを汲む心身統合技術だったという話がメイン。なるほど出自は東洋にあるのかも。確かに昔テレビで見たバロックダンスの立ち振る舞いは、特に古い時代になるほどインドの舞踊を思わせるものになっていくのだったし、長年フラメンコをやっているある知人によれば、フラメンコも起源をたどればインドに行き着くのだというし。この本に示されたバロック的身体技法は、身体的な無理を強いる一般的な音楽教育のアンチテーゼという意味では、確かに学ぶところが大きいかも。とはいえ、ロマン派以降のエゾテリスム化についてはもう少し距離を取った分析がなされないと、なんだか怪しい記述になってしまうんでないの(笑)。いずれにしてもかしこまって聴くだけが能ではない、というのは大いに賛成だけれど。

ちょっとバロックではないけれど、「かしこまらない」という意味で面白いのが、最近聴いた『ガルガンチュアの胃袋』(ACCD-S113)という一枚。コンセエル・ノヴァという国内グループによる95年の録音で、カルミナ・ブラーナやアルフォンソ賢王あたりから「Take Five」なんて現代の曲まで、実に自由なアレンジと闊達な演奏で沸かしてくれる。バグパイプほか主に管楽器を担当しているらしい近藤治夫氏は、ジョングルール・ボン・ミュジシャンなるグループを主宰している。東京・お茶の水のアテネ・フランセなどでも演奏会があるようだ。

投稿者 Masaki : 22:43

2003年11月03日

四大元素

アントニオ・リテレスの『四大元素(Los Elementos)』(AV 8019)を聴く。リテレス(1673-1747)は、マヨルカ島生まれで、後にマドリードの宮廷音楽隊の主席ヴァイオリニストになった人物。作曲も手がけ、オペラ作品でいえばスペイン歌劇の最初期に位置している。で、このロス・エレメントス、擬人化された四大元素が調和を取り結ぶという他愛もない筋立てだけれど、音楽的には当時の主流だったイタリアの形式を踏まえているらしく、実に質素であっさりとした音の運び。高音部が多用されている。けれども旋律自体はなかなか美しく、端正な印象を与える。演奏はカルレス・マグラネル指揮でカペッヤ・デ・ミニストレルス。

ジャケット絵にはボッティチェッリの「ヴィーナスの誕生」の一部(下に掲載した部分)がコラージュ的にあしらわれている。四大元素→新プラトン主義→ボッティチェッリという連想かしら?けれどなぜ「ヴィーナス」かというのは謎か(笑)。「春(プリマヴェーラ)」でも良かったのでは……なんてね。


投稿者 Masaki : 22:35

2003年11月02日

シャルル=ルイ・ミオンとは?

昨日は、珍しくクラシックギターによるアンサンブルを聴いた。トリオ・ニテティスというグループで、あの『聖母マリア』や『からくり人形の夢』などで知られる宗教学者・竹下節子氏が加わっている(そういえば、ちょうど新刊が出ている。題名もずばり『バロック音楽はなぜ癒すのか』(音楽之友社)。未読だけれど期待は大)。このグループ、フランスの忘れられた作曲家シャルル=ルイ・ミオン(1698-1775)を再発見し、その普及に努めているのだそうな。で、今回のプログラムもそのミオンのオペラから、ギターアンサンブル用の編曲で組曲化したものらしい。うん、ラモー的な和声の広がりや、時に不協和が炸裂する刺激的な仕掛けが実に興味深い。演奏も衒ったところもなく(アンサンブルだけに、ギターソロのような「溜め」もなくて聞きやすいし)、実にリズミカルに旋律を刻んでいて好感。ただ会場が盛り上がらなかったのは残念(フランスならこういう素っ気ない(失礼)演奏会でオッケーだけど、日本ではやはりレクチャー形式にしないと、馴染みのない曲は受けない……文化的貧困かもしれないけれどね)。トリオの名称にもなっているニテティスは、ミオンのオペラの題名から取ったものだとのこと。まさにミオン普及の先遣隊という風で、実際、オリジナルの編成でオーケストラル形式でいいからオペラ全曲が聴きたい気がした。

投稿者 Masaki : 22:31