2004年01月30日

シャルパンティエ

まさに「C'est événement !」という感じの1枚が、シャルパンティエ『ギーズ家のための音楽、聖ペテロの否認』(Lira d'Arco、LA 006-2)。合唱指揮はミシェル・ラプレニー。シャルパンティエといえばテ・デウム、それも凱旋行進曲みたいに思われがちだけれど、宗教音楽の方も素晴らしい。この旋律の美しさ、凛とした空気……しかもこの演奏が、その醍醐味を隅々まで行き渡らせている感じ。うん、ただものではない(笑)。これは名盤かも。収録曲は、シャルパンティエの庇護者となったギーズ公に不幸が続き、その葬儀のためにシャルパンティエが作曲したミサ曲やモテット、オラトリオ「聖ペテロの否認」など。そういえば今年はシャルパンティエの没後300年だというから、いろいろ取り上げられていってほしいところだ。

さて、この盤のジャケット絵は、収録されている「聖ペトロの否認」にちなんで、ニコラ・トゥルニエの『聖ペトロの否認』の1つ(部分)。トゥルニエは17世紀前半(シャルパンティエよりはちょっと前の時代)のフランスの画家。この主題は5度以上にわたって取り上げているのだという。
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投稿者 Masaki : 23:38

2004年01月24日

アル・アンダルスなど

このところ聴いているのは、ちょっと毛色の変わった1枚。『アル・アンダルスの呼び声(La llamada de Al-Andalus)』(Pneuma、PN-370)。アル・アンダルスは8世紀以降のイスラム支配下の南スペインのこと。この曲集は一連のシリーズで出ているアル・アンダルスもののアンソロジーっぽい1枚。曲はもろアラビアものという感じ。ラジオでやっているNHKの「アラビア語講座」の「言葉のオアシス」コーナーで流れる旋律の変奏曲も入っている(5曲目)。実に多彩で、とはいえ耳に残る旋律の数々。異文化接触という点でアル・アンダルスの歴史は実に面白そうなのだが、文献はそんなに多くはない感じ(?)。フランス語のものとしてはピエール・ギシャールの通史(Pierre Guichard, "Al-Andalus 711-1492, Une histoire de l'Andalousie arabe", Hachette Littérature, 2000)が基本か。

さらにこれまた興味深い1枚が『ユダヤ聖歌(chants sacrés juifs)』(Philips、456 528-2)。歌っているのはアムステルダムのシナゴーグの聖歌隊(ハンス・ブレーメンダール指揮)。曲目はユダヤ教の祭事に歌われる歌で、全体的には「素直」な、ヨーロッパ風に洗練された旋律。よくいえば耳あたりのよい、時にスラブあたりの民謡すら思わせたりもする曲……。うーん、CDの末尾をかざる「ハヌカ祭」(前164年の神殿奪回の記念祭:12月25日から)の曲なんかは劇的な作りになってはいるが、どこかメロドラマの伴奏音楽みたいかも(笑)。けれど、収録曲にはユダヤの音楽を代表する角笛ショファル(schofar)が使われる曲もあって、その響きがなんとも面白い。

投稿者 Masaki : 19:29

2004年01月16日

帝国……

オーケストラ・リベラ・クラシカによる『ハイドン:交響曲第14番・第53番「帝国」ほか』(TDK-AD005)を聴く。まだ生演奏に接する機会がないのだけれど、このCDはなんだかちょっとまとまりすぎていると感じられるほど。モーツァルトのフルート協奏曲にしろ、ハイドンにしろ、なんだかちょっと一本調子な感じもする。ま、曲想のせいもあるだろうけどね。ハイドンの「帝国」、楽譜だけで少なくとも3種類あるのだそうで、この録音でも4楽章目が二種類入っていて面白い。片方はアンコールでの演奏。この曲のこのタイトル「帝国」は後から付けられたものなのだそうだが(19世紀)、その経緯が不詳だというのが妙に気にかかる……。あまり関係ないけれど(笑)、最近出たスティーヴン・ハウ『帝国』(見市雅俊訳、岩波書店)によると、「帝国」あるいは「帝国主義」という語が否定的な意味合いを帯びるのは、1860年代のナポレオン3世のひ弱な政策を指してのことだったという。それが英国の愛国主義を表す言葉へと転用されるのだそうだ。1860年代といえば、オーストリア=ハンガリー帝国が成立した時代でもある。民族問題などの禍根を残したとして悪名が高いこの帝国だが、ハウはむしろ「多文化主義」の努力などの点で時代を先んじていたのだと評価している……。

投稿者 Masaki : 23:37

2004年01月11日

ソレム修道院

本来は12月に聞くともっと気分が出るはずの一枚を、風邪の病み上がりに聴いている。ソレム修道院聖歌隊『待降節(L'Avent)』(Accord、472 173-2)。先のシロス修道院のものともまた違った済んだ歌声がとても印象的。残響の具合もなかなか絶妙。さすがに正統派の「ソレム唱法」(18、19世紀ごろからのネウマ譜研究で出てきた、音の長さを一定に保つという歌い方)の本家だ。ソレム(Solesmes)修道院はベネディクト会の修道院で、場所はフランス北西部のサルト県。次の写真が結構有名。
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投稿者 Masaki : 21:58

2004年01月04日

60年代の録音もの

年明けの第一弾はやはりテレマン。今回は『ターフェル・ムジーク(抜粋盤)』(Archiv、POCA-3044)。ヴィンツェンガー指揮のバーゼル・スコラ・カントールム合奏団による64年と65年の録音盤(全曲)は「名盤」とされているが、これはその抜粋。昨今のテレマンの演奏はどちらかというと軽やかさの方に流れている感じがするけれど(それはそれでヒストリカリーコレクト(歴史的に正しい)なのかもしれないけどね)、60年代のこれは、むしろ忘れかけていた「テレマンがもちうる重厚感」を思い出させてくれる。ま、食卓で聴くには重すぎる仕上がり(コンサートならこれでよいのだろう)だけれど、バロックの「円熟さ」をこれでもかという位に押し出している感じも悪くない。

同じようなことは、年末に聴いていた61年録音のカラヤン+ベルリン・フィルによるモーツァルト『レクイエム』(DG 457 087-2)にも言える気がする。この演奏もある種の時代的雰囲気を強く伝えているというか……今聴くと「そこまで重々しくせんでも」という感じだ。この盤にはミサ・ブレヴィス「オルガン・ソロのミサ」(K.259)も入っていて、こちらはモーツァルトの軽快さを前面に出している感じで、楽しさに満ちあふれている。

投稿者 Masaki : 21:03