初夏くらいに出て、ちょっと気になっていた浜本隆志ほか編『ヨーロッパ人相学−−顔が語る西洋文化史』(白水社、2008)をやっと読む。良い意味で期待を裏切られた感じ。アリストテレス以来の観想学の歴史が細かく語られていくのかと思いきや、それは第一章(ルネサンスまで)と第二章(近世以降)でさらっと手堅くまとめ、あとの4つの章はテーマで切っていくという趣向。メドゥーサ、グリーンマン、ガーゴイルの話が出るかと思えば、アルチンボルドーや鏡像、仮面の話、パーツの意味作用の歴史(ヒゲ、赤毛、邪視などなど)と、実に広範な話題で飽きさせない。
まず、アリストテレス観想学からルネサンスの占星術的要素の取り込みへの推移、さらにその魔術的要素の後退というあたりはとても興味深く、もっと詳しいものを読みたいところ。17世紀にかけて生じたという、固定的な性格や気質の読み取りから、瞬間的な「表情」と感情の結びつきの定式化へのシフトといった問題は、なかなか気になるところ。演劇やオペラでも、17世紀から18世紀にかけて、人物描写がそういう感じでシフトするという話があったけれど(とりわけその完成形としてのモーツァルトとか)、そのあたりとパラレルな動きということにもなりそう。
グリーンマン(中世の教会建築の装飾に見られる、植物と一体化した顔の彫刻)の話もとても気になる。その部分の担当著者はこれまでの様々な解釈を開陳してみせるけれど、決定打はいまだにないようで。先の『芸術新潮』ノルウェー特集で登場した実証的な研究者からすれば、「すべて装飾で意味はない」と一蹴されるのかしら……。これまた先のパストゥローなどに倣うなら、あるいはグリーンマンを指すなんらかの言葉(中世でそれがどう呼ばれていたかは不明だが)があって、それとの類推で成立した図案なのかも、といった素人考えも浮かんできたり(笑)。うーん、実際のところ、何かそれを指す名称があったはず……なんてことを考えるのは無上に楽しい(笑)。