以前に取り上げたグーゲンハイム本(『モン=サン・ミッシェルのアリストテレス』)に触発される形で、メルマガのほうでもギリシア思想の伝達問題を見直しているところだけれど、最近岩波書店から刊行されている「ヨーロッパの中世」シリーズの1冊(というか第一回配本)、佐藤彰一『中世世界とは何か』が、すでにその本について触れているという話をきき、さっそく取り寄せてみる。これ、まだちゃんとは読んでいないのだけれど、初期中世を中心に、統治の問題から修道院文化まで、最新の知見を交えながらまとめたもののよう。なかなかに面白そうだ。で、上のグーゲンハイム本への言及は、第5章の3節。カロリンガ・ルネサンスの文脈で出てくる。「新説は提示されたばかりであり、今後どのような展開を見せるかはいまだ判然としないが、注目すべき問題提起である」と、ギリシアの諸学が西方で息づいていたという説へは慎重な立場を示している。
で、個人的には、そこに先立つ箇所でフランク世界の「知的磁力の核心」例として取り上げられているセドゥリウス・スコトゥスの話が興味深い。アイルランドの学僧で、848年にリエージュに現れ、ギリシア古典の博識をもとに著作を著し、10年ほどで消えていった人物なのだという(p.249)。愛用の『中世辞典』(“Dictionniare du Moyen Age”, puf, 2002)でも、詳細不明の人物とされている。宮廷付きの詩人としても活躍したようで、詩作品のほか、マタイによる福音書やパウロ書簡の注解書、文法書、さらには自筆でのギリシア語の詩編集なども残っているという。なるほど、これまた興味深い人物だ。著作や研究書も探してみようか。