引き続き、ザクセンのアルベルトについてのザルノウスキー本。これに、中世版の慣性の法則ことインペトゥス理論の系譜が簡潔にまとまっている。ま、そういうまとめは他の著者たちもやっているだろうけれど、これはなかなか簡潔でよいかも。インペトゥス理論はビュリダンで有名だけれど、アルベルトもこれを継承している。もともと天空の運動から着想を得たものと言われる同理論だけれども、より直接的な説明動機は、たとえば石を投げた場合に、手を離れた後も石が運動し続けるのはどうしてなのかという問題にある。アリストテレス以降、中世に受け継がれたのは、石のまわりの空気が媒体として関係しているという説(早い動きで真空が作られそうになるのを空気が回り込んで回避するために、結果的に石が押される、という説と、空気にも手の力が及び、それが繋がる形で物体を押す、という説に分かれるようだけれど)。ピロポノスなどが、投げられる物体の中に運動維持の原理があるという説を唱えるも、それは中世には受け継がれず、やっとルネサンスになって導入されるのだそうで、中世では、マルキアのフランシスクスの『命題集注解』を嚆矢とし、ビュリダンがそれを前面に出す形で、物体に内在する力が論じられるようになるのだという(あれ?記憶違いでなければロバート・キルウォードビーあたりも触れているんじゃなかったっけ?)。いずれにしても、ここでは触れないけれど、ビュリダン以前の幾人かの論者の立場もまとめられていて同書の説明はなかなか有益。これをベースに、メルマガあたりでインペトゥス理論前史を巡るのもよいかも、なんて(笑)。