「ザナドゥーへの道」

就寝前読書の楽しみにしていた中野美代子『ザナドゥーへの道』(青土社、2009)。つらつらと読むつもりが、いつのまにか一気読みに(笑)。エッセイと短編小説の中間のような形式で、中世から現代までの東西交流の様々な要衝(年代的・場所的)をめぐっていくという、カレイドスコープのような珠玉の連作。これは一気読みになるでしょう、どうしたって(笑)。軽やかな筆致で綴られるお話の数々は、とりわけ中央アジアへの憧憬を誘わずにはいない。12世紀に今の新疆ウイグル自治区(つい最近衝突があったばかりの)にあたる東トルキスタンを平定したグル・ハーンこと耶律大石が、西方のキリスト教世界の「プレスター・ジョン」に擬せられたというくだりや、やはり12世紀にエトナ山の噴火を逃れて石工になった青年が、十字軍でエルサレムに向い、やがてムスリムになって耶律楚材に会い、さらにモンゴルの大地で没したという壮大な話などがあるかと思えば、19世紀の碩学のオリエンタリスト、ポール・ペリオや、フランス海軍の軍医、ギュスターヴ・ヴィオーの話など、研究者・探索者の足跡にまつわる話もある。なんとも懐の広い、とても上質な幻想奇譚が12編。あー、満足。中野美代子氏といえば、ずいぶん昔に『仙界とポルノグラフィー』あたりを読んで以来な気もする。あとがきに姉妹編として挙げられている『眠る石–綺譚十五夜』とかも読んでみようかしら。