このところあまり時間が取れなくてちょっと進んでいないけれど、引き続き『魔術的中世』の2章、3章に目を通す。それぞれ、オーベルニュのギヨームとマイケル・スコットを扱った章。ギヨームはアウグスティヌス主義の嚆矢みたいに言われることもある人物だけれど、いわゆる黒魔術ではない「自然」魔術の理論の発展にも貢献したのだという。自然魔術って、要はアリストテレスに準拠した医術・占星術的なものを言うらしい。アーバノのピエトロの先駆みたいな感じ。アウグスティヌス主義的との関連では、「悪魔=堕天使」の考え方の根拠が、基本的にアウグスティヌスの反マニ教的に書かれた『善について』などの、被造物はすべて本来善として創られた後に悪へと逸脱するという議論にあるという話などが興味深いところ。
一方のマイケル・スコットは、シチリアのフリードリヒ2世の宮廷で翻訳に従事したことで知られている人物。他方では占星術師としても活躍したとされる。まずは13世紀以降にvetula medica(古医術)が悪しき術へと価値の低下を被る社会的文脈と絡めてスコットの登場を描いている。アヴェロエスやアリストテレスの翻訳が多数あるとされているけれど、アルベルトゥス・マグヌスが、マイケル・スコットは自然も理解していないし、アリストテレスの著作も分かっていない、みたいに批判しているという話が興味深い(笑)。スコットの関心領域はむしろプラトン主義だったらしく、フリードリヒ2世の用意した諸説混淆の環境(アラブ世界やユダヤ教も含めて)を反映するものであったらしい。スコットはその中で、観想的ではない作用的(operativa)な哲学を理想としていたらしく、それがアラビア的な「魔術」だったというわけか。スコットの考える魔術は、作用すなわち事物の変形・変質を指向する点で『ピカトリクス』との共通性もあるそうだが、流出ではなく神の創造を重んじる点、また黒魔術を知の総合的な術としてではなく限定的に扱っている点などが異なっているという。