遅ればせながら読んだ大黒俊二『声と文字』(岩波書店、2010)。うーむ、これまた、中世の言語状況や文字状況を扱った名著かも(笑)。前半はカロリンガ・ルネッサンスの周辺を、二カ国語併用状況(ラテン語と俗語)という観点で整理するもの。特に文字使用の問題が中心的テーマになる。でも、あまりほかでは扱われない(気がする)、イングランドのアルフレッド王(9世紀末)の学芸復興にも焦点を当てているのが素晴らしい。この時代のいわゆる古英語が、いったんはかなり標準化されていたことなどがなかなか興味深い。後半は一転して今度は13世紀ごろからの実務文書におけるリテラシーの進展が取り上げられている。フィレンツェとかの識字率の高さはまったく驚かされるし、ラテン語こそが書字言語として俗語を文字に導いた、という興味深い指摘もある。また小型本のはしりが13世紀ごろの説教本であることとか、ミクロ流通本(ある種の私家版)の成立の話とか、いろいろ関心を惹く事象が数多く紹介されている。一面から見ると、モノ(書物、文字)との関係でヒト(言語、慣習、態度)がどう変わっていくのかに想いを馳せるための一冊、という感じで、より大きなパースペクティブを予感・待望させたりもする。