外出先での待ち時間が異様に長かったせいで、空き時間読書として持ち歩いていたヘンリー・ペトロスキー『フォークの歯はなぜ四本になったか』(忠平美幸訳、平凡社ライブラリー)をほぼ一気に読了。ペトロスキーというと、以前『本棚の歴史』がなかなかよかったっけね。今回のこれはもともと95年に邦訳が出ていたもの。ここではフォークとかクリップ、ポストイット、ファスナー、大工道具などなど、実用品を中心に技術史をまとめ上げている。なかなか見事な網羅振り。そしてなんといっても、モノの進化というか変化の根底にある、どこか不条理ともいえる力学に光を当てているところが素晴らしい。必ずしも優れた技術が生き残らず、凡庸なものが勝ち残ったりするのはなぜかというあたりの、どこか悩ましい問題に、様々な事象を動員して答えようとしているかのようだ。そしてこれをもっと抽象度を上げた話に練り上げれば、たとえばシモンドンみたいな話になることもわかる。技術史のレイヤーにとどまりながらも、上層の技術哲学のレイヤーがほの見えているような、そんな感じの好著。