これは期待通りの一冊。キアーラ・フルゴーニ『カラー版・ヨーロッパ中世ものづくし』(高橋友子訳、岩波書店)。基本的にいろいろな「モノ」に囲まれた現代人の暮らし。その大元がもしかするとヨーロッパ中世にあるなんて話は、すでにいろいろなされているけれど、まとめて読むと改めて感慨深いものもあるなあ。メガネや本、楽譜、トランプ、チェスボード、ボタンや下着、フォークなどなど、その大筋の形が定まっていくのが中世。もちろん最初は修道院とか、財力のある富裕層で消費されるだけだったわけだけれど、私たちの生活の馴染みのモノが、はるか上流でそれがどのように使われていたのかを垣間見るとうのもなかなかの一興だ。この小著(もっと大部の本かと思っていた)、類書もないわけではないけれど、同書は記述も細かくてとても面白い紹介になっている。たとえば冒頭のメガネの章では、メガネの発明家が捏造された話なども取り入れているし、またカラー図版をふんだんに紹介して、図像学的な見地からのその変遷なども詳しく解説していく。この図像学的な解説部分が個人的にはとても気に入った。ちなみに解説を大黒俊二氏が記しているけれど、これは同書の訳者の遺作なのだそうだ。