積ん読本から割と最近の小池寿子『内蔵の発見ーー西洋美術における身体とイメージ』(筑摩書房、2011)を一気読み。雑誌連載の学術系エッセイをまとめたものながら、中世後期から近代初期にかけての美術と医術との交錯を読み解くという個人的にはとても好感度の高い一冊。とりわけ、表題にも関係する解剖学・剥皮人体図の話が出てくる三章あたりから筆致が冴え渡ってくる感じがする。「愚者の石」(尿石ならぬ脳石。これが大きくなると愚かになっていくとされた)を扱った四章などは、ヒエロニムス・ボスやブリューゲルが取り上げられて、さらに話は錬金術へと移っていく。続く五章でも、子宮内を描いた図像から話は錬金術のフラスコへ。後半の各章は、肝臓をつつかれるプロメテウスから始まって、ヒポクラテスの体液説、エラシステオラトスによる心臓と愛との結びつきなど、古代ギリシアの諸説が通低音となり、その上にサレルノの瀉血治療やメランコリーの説明(コンスタンティヌス・アフリカヌス)、キリスト教文化での心臓のイメージの飛翔などの話が飛び交う。このあたり、さながら対位法的な音楽を聴いているかのような気分になってくる。図像も多数収録されていて興味深い。なるほど美術と医療とはかくも交錯するというわけか。なにやら期せずして連休にぴったりのリッチなイメージャリー本だった。