グロステストの占星術書

ロバート・グロステストの天文学書(占星術書)と暦法書について書かれた、とある学位請求論文に、前半を中心にざっと目を通す。マチュー・F・ダウド「13世紀初頭のオックスフォード大学における天文学と計算術:ロバート・グロステストの著作」というもの(Matthew F. Dowd, Astronomy and Compotus at Oxford University in the Early Thirteenth Century: The Works of Robert Grosseteste, Univ. of Notre Dame, Indiana, 2003)(PDFはこちら)。グロステストの天文学(というか占星術)と暦法計算のそれぞれの著作をまとめ上げ、その著述年代を推定する内容で、思想そのものを取り上げているのではないのだけれど、両分野でのグロステストの主要著作の内容を詳述している点がとりわけ目を惹く。とくに前半の『天球について(De spera)』の段落ごとの内容紹介は、英語圏では初だと自負しているほど。

基本的に前半はこの著書を中心とした年代特定と、その想定読者像を検討するのが主眼。けれども個人的にはやはり各著書の内容そのものが気になる(笑)。グロステストは初期の著作『自由学芸について(De artibus liberalibus)』で、天文学(占星術と区別されていない)が、植物の成長(農業)、金属の変成(錬金術)、病気の治療(医学)において有益であるとし、その後の『天空について(De aeris)』では、アラビア経由の占星術について、とくに基本タームの解説を行っている。ただ、前者は学生というか入門者向け、後者はすでに占星術のチャートなどが読めるような上級者向けなのだとか。さらに後に書かれたとされる『天球について』も、様々な占星術タームを学ぶことはできるものの、占星術書としての実利的な面はごく限定的らしい。論文著者によれば、総じてグロステストの占星術書は、天文学的・占星術的な精緻化を図るものではなく、先行する時代の技術的なテキストを凝縮した教科書のようだ、とされている。後半の暦法計算の書も、同じようなスタンスで解釈されているようだ。

面白いのは、『最初の六日間(Hexameron)』でグロステストが、聖書の一部の箇所は、天文学的(占星術的)知識があればいっそう十全な理解が得られると暗に示唆していること。神学と自然学がここでは相互に解け合っていることがわかる。そこに明確な線引きなどはなかったというわけだ。同じように、アリストテレス思想の要素が『天球について』などに散見されることについても、論文著者は神学と哲学の明確な区別はなかったと指摘している。

↓wikipedia(en)から、司教ロバート・グロステストの像(19世紀)。セント・ポールズ・パリッシュ教会(モートン)のステンドグラスから。