このところの諸々

本当は年頭の一発目に書くようなことなのだけれど、ちょっと遅れついでにだらだらと記しておこう。晩秋ぐらいから、それまで暇を見つけては読んでいたガレノスの『治療法』をいったん休み、思うところあってアリストテレスのテキストでまだ通読していないもの(主に小品)を読み進めることにした。基本的にLoeb版でギリシア語を読む。何かの論考を読むときに参照箇所として部分だけを読んでいくのも悪くはないのだけれど、じっくりと味わうにはやはり一度はちゃんと通読しておかないと(と自省)。それに、通読するといろいろ細かな発見もあったりして楽しい。たとえば『動物の進行について』に「自然は無駄なことをしない」(ἡ φύσις οὐθὲν ποιεῖ μάτην)という一文が出てくる(704b)。冒頭の基本原理を示すところに出てくるのけれど、似たような表現として「自然は自然に反したことはしない」(ἡ φύσις οὐδὲν ποιεῖ παρὰ φύσιν)というのが、翼の効用話の箇所に出てきたりする(711a)。別になんということもないのだけれど、こういう「プチ発見」の積み重ねが、もしかすると後々意外に重要だったりとか……しないかしら(?)。『動物の運動について』も、静止している部分が動的な部分を導くという動物の構成原理の基本的な考え方から、類比的に天球の運動や(699b)、あるいは都市国家の統治(703a)にまで言及される様がしなやかで心地よい。というか、個人的にアリストテレスのギリシア語は、よくわからない部分もあるものの、ほかのテキストを読んでから戻ってくるとなにかこう落ち着く気がする(笑)。古巣に帰ってきたような(?)。そういえば岩波書店が創業100周年の大型企画の一つとして新版のアリストテレス全集を刊行するのだそうだ。全二〇巻とのことで、旧版よりも巻数も増え、当然最新の知見も加味されるだろうから、期待はいやがうえにも高まる。ま、それを待ちつつ、こちらも原典読みを進めていきたいと思う。

もう一つ、こちらはさっぱり進んでいないだけれど、昨年の初秋の頃から、アヴィセンナ(イブン・シーナー)の『治癒の書』から「自然学」の部分を読み始めた。ジョン・マクギニス訳の対訳本で、英語を参考にアラビア語を囓っているわけなのだけれど、一週間で2、3ページの超スローペース。全体は上下巻合わせて正味で500ページ(本としてはプラス対訳が500ページ)超なので、いつになったら通読が完了するのかまるでわからない(笑)。慣れてくればもう少しスピードもアップできるだろうけれど、道は遠い。ま、それほど嫌いな作業ではないので(笑)、ぼちぼちと続けていこう。そういえば昨秋はその同じ『治癒の書』から『魂について』(木下雄介訳、知泉書館)が邦訳で出ている。これもぜひ参考にしたいところ。

さらに以前やっていたプセロスの『カルデア神託註解』の訳出作業も、震災の後にいろいろな事情で止めてしまっていたけれど、そろそろぼちぼちと再開しようかと思っている。これをとりあえず一通り訳了したら、『ティマイオス』がらみで何か見ていくのもよいかなあ、とも考えている。一昨年の春ごろだったかにフランスで刊行されたカルキディウスの『ティマイオス註解』(Vrin, 2011)を先頃購入したので、これを(一部分でも)見ていくのも面白いかも。